こんにちは。ヒロインです。
って、自分のことをヒロインと公言してしまうヒロインがどの世界に居るんだって話ですけどそこらへんはご愛嬌。
事実ですし。

なんて冗談はさて置いといてやってきました。
どこにって?それは――。













   君と雑巾と act:1













「熱い。とにもかくにも熱い。この場で溶けて地面に吸水されて冷た〜い地下水と一体化したい。」


茹だるような暑さと蝉の声。季節は夏。
片手に大きめの旅行鞄を引っさげこの物語のヒロイン、は滲む汗を拭いながらも目的地へと歩みを進めていた。
なぜ今年の最高気温の記録更新日が今日なのか。悪態ついてもどうにもならない事なのだが地球を恨まずにはいられまい。
地球にとってはさして気にも止めない声だろうが。

だがめげずに彼女はこんな炎天下の中、重たい荷物を引っ提げて歩いている。
地元、の生まれ育った故郷からは程遠い地。細かく言うと実家から駅まで徒歩30分、電車で約5時間(乗り換え有)、そこから更に徒歩50分。
幸いしているのは、まだ『ド田舎』ではないということ。
都会に比べれば田舎寄りだが、観光地でもあるらしく人で賑わいを見せている。
傍から見れば旅行客にみえるだろう。しかしの目的はそれとは正反対で。


「えーっと目的地まで・・・あと3分?このナビ本当に機能してんの?さっきから時間変わってないんですけど?」


原因は歩く速度が異様に遅いだけなのだが気づいていない模様。放っておこう。
ぐだぐだと現代の若者もびっくりな程だらしなく歩く姿は見ていて気持ちの良いものではない。
それを見かねたのか、お土産屋さんの前で呼び込みをしていたおばちゃんが声をかけて来てくれた。


「あらあら若いもんがそんなみっともなく歩いちゃ気が滅入るよっ!観光客かい?こんな暑い中来てくれてありがとうね。」


エプロンと三角巾を身につけたおばちゃんは熱気にも負けず元気ハツラツといった様子で、は気だるさも相まって正直めんどくさいな、と失敬な事を思う。
そんなの様子に気づかないのか、はたまた気にもとめてないのか。試食を勧めてくるあたり後者なのだろうがにっこりと人あたりの良い笑顔を絶やさないのはさすが商売人である。
名物だかなんだか知らないが差し出されたお団子を1つ頬張り、はこの会話に興じることにした。


「いやー観光客ではないんですよそれが。この先にあるらしい金山寺に行きたいんですが全くたどり着けないと言うかなんと言うか・・・ははっ・・・。」


どうやら語尾を濁し渇いた笑いが出てしまうのは己に後ろめたさがあるのを自覚しているから、らしい。
いやホント情けない。自分で分かるのだから当然目の前のおばちゃんも同じことを思っているに違いない。
その証拠におばちゃんは呆れた顔つきになっている。


「あんらぁ・・・あんたってばあーんなに目立つ建物が見えないのかい?それともなんかの漫才かい?」


そう言っておばちゃんはの斜め後ろを指差した。
は振り返る。そしてそこに見えたものは。


「近っ!意外に目的地は近くにあった!これはたまげた!!」

「さっさとお行きよ。この道まっすぐ行けば門があるから。ほら、団子買うなら半額にしてあげるよ。」


冷ややかな口調は気のせいではあるまい。目は口ほどになんとやら。に向けられた瞳は氷点下。
本日の最高気温と最低気温のダブルパンチを食らったは、ちゃっかり商売を全うするおばちゃんに根負けして団子を1箱買い、教えてもらった道を只管歩くのであった。


「つ、着いた・・・私はたどり着いたのだこの地に!!!!」


おおよそ3分。大変立派な門構え。どうやらナビは機能していたようだ。
6時間33分(その内10分のタイムロス)。長かった。とてもとても長かった。そして疲れた。
流石に限界が来た肩にかけていた鞄を地面に降ろし大きく深呼吸。多分、1週間分のエネルギーを消費したに違いない。
実際は5時間は車内でくつろいでいたので1時間33分しか動いてないのだが。
そんな些細(?)な事実をもみ消しつつ、もう一度深呼吸。

今日からここがの職場である。大学を中退してからというものの就活難に陥って早1年。
無職とはオサラバだ。とある筋から紹介された住み込みバイト。正社員ではないのがアレだが藁にもすがる気持ちで今日ここに来た。


「さらば引きこもりニート。こんにちは花のバイト生活。私は今日からフリーターに昇格だ!!!」


気合を入れ一歩踏み出す。
空気が、世界が変わった――気がした。




















敷居跨ぐ



――この物語はとあるフリーター女と雇い主とのなんやかんやわいのわいのするラブラブ?コメディーである――













To be continued.












ATOGAKI
お久しぶりでございます。リハビリも兼ねてしょーもない物語の始まりです。
※ちなみに管理人はお寺の知識無しです。