「ワシは死んでおらんし、お前を嫁にやる気も毛頭ないわい!」
の冗談半分本気半分な手紙を見て憤る待覚大僧正の様子でした。
雑巾と君と act:5
今日は1年のうち最も忙しいとされるお盆である。多分。いかんせんにお寺の知識は無い為、現在体験している疲労感から割り出したものだった。
聞くところによると正月は地元民や壇家以外、近くの市民などは揃って県内の大きなお寺に初詣に行ってしまうとのことで、の憶測もあながち間違いではないだろう。
ここより大きなお寺が県内に存在しているのか。世間は狭い。と、どこかズレた事を考えるは次々と塔婆を受け取りに来た人たちに思考をかき消されていった。
こんな朝っぱらから見る盆提灯はなんだか不思議な気分にさせられる。亡くなった方はさぞ鼻が高い事だろう。
中には正午を過ぎてから来る人間も居るのだ。この落差に格差社会を彷彿とさせた。
「ちょっと遅くなりましたが交代で朝ごはんをいただきましょう。、支度をお願いしますね。」
前回はっきりと宣言した通りごはんの準備はあれから概ねが担当している。毎日作るのが楽しみといえばそうだ。
だが気がかりなのはその全ての品物にマヨネーズをふんだんにぶっ掛けられるということ。
健康面を考慮してもヤバイっしょ。ていうか、腑に落ちない。そうだ。何が『不味くはねぇ』だ。
八戒は最初に気にするなと言っていたがこうも毎日躊躇なく当たり前にぶっ掛けられると解せぬ。解せぬのだよ!!!
そろそろチーズ料理のみを出す時が来たか・・・。
なんて、こんな事を思える様になるとは微塵も予想してなかった頃が懐かしいとさえ思う。
ここに来てから日は浅いが、こうも打ち解けられたのはぶち壊してくれた彼のお陰。そして、それに続いてまっさら綺麗に粉砕する3人のお陰だった。
認められた、と思い上がってしまっても良いのだろうか。もしそれが許されるならば。
「あ〜腹減った〜〜。柄杓がないだとか手桶が足りないだとか人来すぎだってーの!!」
「お疲れ様です、悟空。が朝ごはんの支度をしてくれていますのでお手伝い頼めますか?もちろんつまみ食い禁止ですけどね。」
「りょーかい!よっしゃあああ!今日の朝飯なんだろうなー!」
「廊下は走らないでくださーい!やれやれ、朝から元気で良いですねぇ。」
「そういうあーただってご機嫌じゃん?」
「これからご機嫌になるんですよ。きっとですけどね。」
「ナニよ?あの殻籠もりのお姫様に変化でもあったワケ?」
「それは朝食の時のお楽しみです。もう、殻籠もりだなんて言わせませんよ。」
「今初めて言ったけどな。結構センスある二つ名だと思わねぇ?」
「まぁ、孵った時の喜びが増しますね。・・・楽しみです。」
「・・・そうだな。」
今日も蒸し暑い熱気。真夏の空は心地よい程晴れ渡っていた。
そして今年の何度目かわからない最高気温更新日である。
そんな中、お寺に居るお坊さん総出ということもあってか午後にはある程度余裕が出てきた。
塔婆以外にも色々と檀家さんらは用事あるらしくその対応に追われてはいるが忙しなく動くまでもない。
「今晩からはお墓の見回りですね」
という八戒のさわやかな笑みはあまり耳に入れずは朝に出来なかった家事に取り組むことにした。
ここに来てから数週間。体力は常人並みに鍛えられ、睡魔も襲ってこなくなってきた。
それに比例して疲れも多からず溜まってはきているものの、充実感も方が優っている状態だ。
目に見える変化が嬉しい。自分も人並みに仕事をして、勉強して。
これが成長というものならなんて素敵なものなのだろう。
初めての感覚に戸惑う反面、湧き上がる喜び。
は生まれて初めてと言っても過言ではないこの衝動が心地よかった。
「茶のおかわりだ。」
開け放たれた襖の前を横切る瞬間に聞こえた低音ヴォイス。
和室には誰も居ない。という事はやはり自分にかけられた声なのだろう。
1歩分通り過ぎた足を戻し、襖から顔を覗かせると三蔵が湯呑を掲げてが受け取るのを待っていた。
「はいただいま。」
「濃い目で頼む。」
短い会話。だがコレで十分だった。三蔵は無駄話を好まない。も口下手な方なので丁度よかったといえばそうだ。
喋る時は喋るので大元は口下手ではないのだが、少し距離を置いているのだろう。
三蔵は何も言わない。言わないという事は肯定。そう捉えている。
このままで良いのか、とは思うものの自分からアクションを起こして悲惨な事になりかねないのだから致し方ない。
そう考えていた矢先のことだった。
「・・・今日もクソ暑いな。」
「・・・・・・えっは、はい。そうですね。」
ふいに発せられた言葉。まさか話を振ってくるとは思わなかったは反応が少し遅れる。吃るというオプション付きである。
「・・・変な顔してんじゃねぇ。俺が馬鹿みてえじゃねぇか。」
「すみません・・・三蔵さまは雑談とか好きではないと思っていたので驚いてしまいました・・・。」
「チッ・・・俺からは滅多なことじゃないと話しかけんがな。話しかけられればそれなりに返す。」
「それは・・・」
それは、雑談しても良いという事だろうか。無駄話にも付き合ってくれるという事なのだろうか。
無言の気まずさに耐え兼ねていたと見透かされていた、と。
なんだか恥ずかしいな、と思わず頭を掻く。だけどそれも喜びに直結していて。
「わ、私、じっちゃんとしかちゃんとお話ししたことなくて・・・その・・・八戒さんとかは話しかけてくださるからお話しできてるっていう状態でして・・・その・・・」
仕事上、義務的な事で話し掛ける事はするものの、雑談に興じた事はなかった。
必要以上に話しをしない。折角壁が無くなったのだが仲良くなった気がしなかったのが現状。
これではマズイとは思っていた。それを先に指摘されるとは夢にも思うまい。
「別にお前からの話しを無下にする気はねぇよ。それに、奴らだって『一方的』っていうのには思うところがあんだろ。」
「でも・・・自分の事とか話すのはやっぱり得意じゃないですし、何て話しかければいいのかも分かりません。」
「んなもんテキトーでいいだろ。これから長い事共にするんだ、お前も奴らもぎこちなくて見ているこっちが滅入る。」
「善処、します・・・。」
あぁ、なんだってこの人は敏いのだろうか。普段興味なさげに過ごして居ると思えばこの鋭さだ。
おまけに慣れない雑談までして、フォローして。見かねていた、というのが本心だろうがそれをひっくるめても優しいと思う。
ここまでさせているのが申し訳ない。やはり自分は人間としての何かが欠けているのだろう。
「あと、『様付け』はやめろ。直ちに、だ。」
「それはちょっと・・・。」
「ここの一員なんだろう。全員を呼び捨てにするまで家事禁止だ。」
「そこまでの事です!?」
「ま、精々頑張るんだな。ちなみに家事しない間は夜の墓場の見回りだ。無論ひとりでな。」
前言撤回。やっぱりこの人は鬼だ。
とはいうものの。一番やるべき家事ができないというのは居たたまれまい。
洗濯しようとしてたのにそれさえも却下された。
どうしろと。お寺の仕事だってひと段落している。探せば細かい事はあるのだろうが、それは逃げになるのではないか。
「逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ」
「声に出てるぞ。」
この鬼の本心が見えない。今に始まったことではないが、今まで以上に読めない。
こんな難関を突きつけられるとは思いもしなかった。これが、試練か。
強制されて言うものでもないと思うのだが、背に腹は代えられまい。
ここは腹をくくるしか・・・。
「でも雇い主様ですし・・・そんな恐れ多い・・・」
「御託はいい。さっさと言え。」
「さ、三蔵・・・さま。」
「あ?」
「さんぞ、さん」
「『さん』も要らん。」
「さんぞう・・・って本名ですか?」
「その調子だな。ちなみに本名でもあるが昔は違う名前で呼ばれていた。」
「そうなんですか・・・ちなみになんと?」
「呼び捨てに出来たら教えてやらんでもない。」
「意地の悪い・・・。」
「ぶっころすぞ。」
「すみませんでした。」
恥ずかしい。そんな、男性の名前を呼び捨てにするなどと。
恐れ多い以前に初心なであった。
「じゃー俺は?俺の事は呼び捨てにできるだろ?年下だし!な、!」
と、そこにどこから聞きつけたのかいつから居たのか悟空が話に混じって来た。
しきりにお腹が鳴っているのを見ればおやつか何かを探しに来たのだろう。
なにはともあれグットタイミングというかバットタイミングと言うべきか。
三蔵に比べればハードルは低いが、そんな急に言われましても、というのがの本音である。
「ご、悟空さん・・・」
「俺さん付とか初めてだ・・・!」
「感動してんじゃねぇ馬鹿猿。」
話が違う方向に行ってしまう気がする。
「俺様を差し置いてサルを呼び捨てにはさせねぇぜ?」
ややこしくする奴も参戦してきた。
「貴様は引っ込んでろ。」
「ナニよ?三蔵サマなんてを口説くには100年早いっつーの!」
「何やら騒がしいですね。悟空も悟浄も仕事ほっぽり出して・・・減給ですね。」
「「いや、これはの為に・・・!!」」
「貴様らまとめてたたき出すぞ!!」
八戒も来ることによってフルメンバーが揃ってしまった。賑やかさに一層磨きがかる。
肝心のはというと。
「逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ・・・」
目の前で繰り広げられる乱闘に目を背け、頭を抱えてうずくまっていた。
これではマズイ、とつかさず八戒が助け舟を出すことに。
「いいですか、三蔵。あなたもを呼び捨てにしてませんよね?人のことを言うならまずは自分から。基本中の基本ですよ。」
「「そーだそーだ!」」
「ぐぬぬ。」
八戒の言い分は正しかった。いつの間にか、と呼び捨てにし始めていた3人だからこそ言える事だ。
3人は彼らなりの気遣いである。三蔵も同じなのでこの話題になったのだが、いかんせん言いだしっぺが実行していないのだから反論しようもない。
「この期に及んで自分だけ恥ずかしーとか思ってねぇよな?三蔵サ・マ。」
「汚いさすが三蔵汚い。こんなんじゃ可愛そうだよ!」
「さぁ、三蔵。雇い主が呼ばないとだって言いづらいんですよ。」
ぐぅ、と追い詰められた三蔵。そう言えばがここに来てからというものの、ろくに名前さえ呼んでいない。
別に意識して呼ばなかったわけではないのだが、呼ばなくともは自分に話しかけられているというのは分かったので態々指名しなくとも不自由はなかったからなのである。
ここまで来たのは自然の流れであろう。いやはやしかしながらまさか自分に飛び火が来るとは思わなんだ。
だがここは三蔵。雇い主の威厳を今ここに。
「チッ・・・たくしょうがねぇな。おい、さっさと呼びやがれってんだ――。」
ドキリ、と心臓が一際大きく脈打った気がした。
心地よい低音で呼ばれる名前。他の3人とはまた違った・・・これは、喜びなのだろうか。
無愛想で無口で人相が悪くて、だけど人を見る目が鋭い三蔵。
嫌々かもしれないが、だけど。だけどの為に口にする名前。
名前を呼ぶだなんてなんとも思っていないのかもしれない。だけど。
「ありがとう、ございます――さん、ぞう。」
嬉しかった。人に呼び捨てにされるというのは、とても嬉しい事なのだと知った。
「さんぞ、う。さ、三蔵。三蔵・・・!」
「言葉を覚えたての赤ん坊か、お前は。」
いつだったか、悟空にも同じような反応をされた事があったか、と自然と上がる口角。
それを無意識に煙草を挟む手で隠し、顔を赤らめ目に涙を浮かべるに柔らかな視線を送った。
まったく、見ているこっちが恥ずかしいと言わんばかりに。
「親しい人に呼ばれる名前は格別ですよね。呼び捨てなら尚の事。そうは思いませんか、。」
「そうだぜ?さん付けなんて他人行儀はこの際全部とっぱらっちまおうぜ。な、。」
「俺もすんげー嬉しい!!だから俺の事も呼び捨てにしてくれよ!!」
遠まわしなのかストレートなのか、各々呼び捨てにしてくれと願う声。
親しい間柄なのだと認め、他人行儀をするような仲ではないと諭し、嬉しいのだと伝えてくれる。
次々に呼ばれる名を好きになれた。もっともっと彼らに近づきたいと思った。
だから、も口にする。素敵な名前を。親しくなりたいと願った名前を。
「・・・悟空・・・八戒・・・悟浄。これからも、よろしくお願いします!!」
「俺の名前もだ。」
「はい!三蔵!!」
壁を壊しただけでは近づけない。一歩、踏み出さなくては。
その1歩はとても勇気のいる1歩だ。しかし、それを超えてしまえはそこは。
♂♀
地獄だ。今までの感動ストーリー(?)はなんだったのだ、と言いたくなるような物言いだが致し方ないと断固主張する。
何故なら今は草木も眠る丑三つ時。いつもならもう寝ている時間帯なのだが、これも仕事の一貫であり生意気に拒否もできまい。
は現在、墓場の見回りの真っ只中に身を置いていた。
「あばばばばば・・・南無三南無三南無阿弥陀仏」
お盆といえばご先祖様をお墓から家に迎え、最終日まで御もてなし?する行事である。
しかしお墓と言えど完全にお墓を留守にするわけにはいかない。
という事は毎年ローテーションでご先祖様から1人お留守番を残さなければならない。
そうして出来たルール。それはお墓にロウソクに火を点けて置いておくというもので。
したがって火事という危険性を考慮して一定の時間に見回りをしなくてはならないのである。
近年では普通のロウソク一本ではなく、倒れにくい幅が広く少し大きめのロウソクが流行っている様で安全性は疑いようもないくらいだ。
しかし念には念を。もしもの事がないように仕事内容は変わることはない。
あぁ、無情。リ・ミゼラブル。当たり前であって普通の事なのだがそれでも嫌なものは嫌だ。
なんてったってここは本当の墓地であり、ムード満点のおどろおどろしい場所。
お寺に住み込みしてるくせに何を今更って言いたい所だが、お寺から墓場は離れておりこのような夜中にほっぽりだされると言うのはまた別らしい。
『墓場は供養してある神聖な場所だ。幽霊なんざ居ねぇよ。』
道理である。運動会しちゃう妖怪はいるかも知れないが。
「なんで・・・名前呼んだのに・・・一人で見回りなんですかー!!やだーー!!!」
社会は無情である。
ここのお寺は山の中腹にあり(といっても山自体低いので階段は短い)お墓はお寺から少し横に行ったところに位置している。
上にも下にも縦の広さは結構なものでその為、場所も開けている。そこから見渡せる麓に広がる街並みは絶景だ。明るいうちなら、の話だが。
夜、しかも深夜ともなると街の灯りも少なく、闇が大半を占めて居る。怖さを倍増させているといっても過言ではない。
問題はそこではない。何故は難関を突破できたというのにあの罰ゲームみたいな事を実際にさせられているのか。
答えは数分前に昇る。
「折角ですから、肝試しでもしましょう。」
「・・・ナニがどうなって折角なのヨ?」
「真夏でムード満点。ロウソクが点いていますしそこまで怖くはないですよ。イージーモードって奴ですね。」
「じゃあくじ引きで決めようぜ!4回は見回り行くんだよな!?」
「一石二鳥だな。」
「(ガタガタガタガタガタガタガタガタ)」
お分かりいただけただろうか。全ての元凶は八戒その人だ。きっとおそらく、否、絶対三蔵との会話を聞いていただろう彼は人の悪い笑みを浮かべて提案したのだ。
平気なのは3人。苦手なのが2人。些かずるい気もするが決まってしまったのだから致し方あるまい。
不満は残るものの、よりによって丑三つ時というこの時間帯を引き当ててしまった自分の運の悪さを呪う他ない。
ちなみに順番は八戒→悟空→悟浄→→三蔵である。20時から2時間置きのローテーションだった。
何故苦手組が一番怖い時間帯なのだ。八戒の思惑が絡んでいるとは知る由もない。
「誰も出てきませんように・・・あ、光明様なら大歓迎です・・・。」
そう言えばこの世ならざるものには初日に会っていた。あれは日中だったし最初は生きていると思っていたからなんとも思わなかったのだが。
しかし光明様は神聖な人と認識しているなので、むしろ居てくれた方が安心するという。
『おや?お呼ですか?』
「うっぎゃあああああああああああああああああああああああああああああ!!」
お約束ですが、吃驚するものは吃驚するのでした。
『大歓迎すると仰っていたのに・・・』
「ず、ずびばぜん・・・でもいきなりは・・・やめてくださうぃ・・・」
『すみませんねぇ。脅かそうと思っていたのは謝ります。』
「悪意アリアリですか。」
お茶目な光明様なのでした。
それにしても、とは思う。夜という事もあってか、月の光と比喩しただけあり本当にお月様が佇んでいるようだった。
頭上にも本物は健在しているのだが、光明の前だと暗がりであってもそれすら霞む。本当に暖かく、柔らかな光だ。
いきなりの登場には驚いたものの、落ち着いてみるとそれがはっきりと感じられる。
常駐はしているんだな、と場違いな事を考えた。
『あの子はどうですか?さんに意地悪はしてませんか?』
「い、いえむしろ本当に良くしてもらっているというか、優しいと言うか・・・とてもいい人です。」
『いい人、ですか。ふふふ・・・それ以上になるといいですね。』
「?」
光明の意図する事は分かりかねたが、やっぱり息子さんを心配しているんだなぁで落ち着く。
この手の話題にはいくら察しのいいでも専門外らしい。
『お元気そうで何よりです。ですが・・・さんは少しお疲れのようですね。ちゃんと休養は取ってますか?
年頃の女の子なのですから疲労はお肌にも悪いですよ。』
「一応、ちゃんとした睡眠もとってますしごはんも毎食頂いておりますが・・・」
『そうではないんですよ。貴方はとても察しの良い方だと聞き及んでいます。今の時期人の出入りも多く精神的に滅入っているのではないですか?』
「それは・・・そう、かもしれません。でもみなさんよくしてくれますし・・・でも、やっぱりちょっと疲れているのかもしれません・・・」
檀家さんなのだから当たり前のことだが、みんないい人だ。クレームも入らないし、優しい。
だけど、1日にこんなに人と接したのは久しぶりだ。むしろ無いに等しい。
疲れが貯まるのも無理もない。お坊さんやアルバイトの3人、雇い主らの温かみにかき消されているだけなのだ。
指摘されて初めて自分の状態が分かるなんて、自己管理ができていない証拠である。
『そう気を落とさず・・・それほどまでにして充実してた毎日を送っているということですね。よかったではありませんか。』
「何もかも初めての事なので・・・でもそれを理由に自己管理を怠ると言うのは違うと思うのです。楽しさに浮き足立ってしまったのかもしれません。」
『結構な事じゃありませんか。楽しくてしようがない、それは誰しも経験することです。それが”普通”というものですよ。』
この人の力になると豪語していた癖に、反対にその心配の種に心配を掛けているという現状が情けない。
しかし光明は『それが普通』と言う。普通とはなんなのか、『普通』の生活をしたことが無いにはまだまだ分からない事だらけ。
でも、と。この優しさに満ち満ちた彼が言うのだから、それでいいのだと学べたという事なのかもしれない。
『そろそろお迎えが来ますね。ではさん。これからも頑張ってください。もちろん、自分自身の事を――。』
息子の事を頼んだが、それだけではない。どうか自身の成長をと願う。
慈愛に満ちた瞳は細められ光明の姿は儚い光になって静かに消えた。
残されたは胸に暖かな物を感じながら目を瞑る。心が満たされる感覚がこそばゆい。
同時に今まで張り詰めていた糸が切れたかのように疲労が押し寄せ、足元がふらついた。
これは安堵からくるものだ。光明に諭され『気が抜けた』のかもしれない。
ここに来てから初めての感覚に焦るも、不思議と悪い気はしなかった。
休息は必要なもの。疲れが溜まったままにしたら動けるものも動けなくなる。
足でまといにはなりたくない。なら、少し休んでみようか。
己の心境の変化に戸惑いつつ、彼らならきっと許してくれるだろうと心底安堵するであった。
「・・・おせぇと思ったら・・・はぁ・・・。」
時間が過ぎても一向に戻ってこないを見回りついでに探してみたら、墓地に設けられたベンチにお目当ての人物は居た。
すやすやと安らかな寝息をたてて横になっているというオプション付きで。
思わず嘆息する三蔵。行く前はあんなに怖がっていた癖にどうすればこんなところで気持ちよさそうに寝れるのか甚だ疑問である。
呆れつつも振動を与えないように同じくベンチに座る彼は、眉間の皺によらず行動は優しさに満ちていた。
煙草に火を点け一息。生憎かけてやれる上着もひざ掛けも持ち合わせてはいない。煙を吐き出すと共に舌を打ち点けたばかりの火を足で踏み消し今一度嘆息。
重そうに見える腰は意外と軽く、見た目と同様軽いを抱き上げると早々に墓地を後にした。
背後で懐かしい気配が微笑むのを無意識に感じつつ――。
To be continued.
ATOGAKI
呼び捨てで名前を呼ばれ、呼び捨てで名前を呼んでみようと言う話し。
初対面で呼び捨てはちょっと・・・って感じだけど、親しい間柄の人に呼び捨てにされると仲良くなった感が倍増するよね。
ニックネームでも良いけどね。長い付き合いの人のことを唐突に呼び捨てっつーのも吃驚するし(笑)
人それぞれの名前も呼び名も親しいことには変わりない。けど、親しくなるという課程での変化はとても素晴らしい事だと思いました。おしり。
※この話は分かる事は実体験を元にし、そのほか分からない事があれば調べると言った感じなので確かなものではありません。まにうけませんように。※お盆の事。
いやもうホラ、お盆に卒塔婆取りに行ったかどうか曖昧ですし。施餓鬼の時じゃなかったかな?新盆だけかな??うえーん。
迎え盆も別に朝から行けばいいってわけじゃないし。普通は正午ぐらいかららしいし。うえーん。
てな感じなので間にうけませんようにお願いします。正しい事が知りたい方はご両親などに聞くかお寺さんにお問い合わせください。笑