She never looks back











 act:Another











どうしようもない不器用さだ。扉の奥から聞こえる叫喚を聞きながら思わず嘆息をもらす。壁にもたれると室内から発せられる声の振動が直に伝わってきて些か不快だった。 あのクソぼっちは本当に救いようのない馬鹿だ。そうやって自分を必要悪としどこに吐き出せばいいのか雁字搦めになった新兵の慟哭を受け止める事で救おうとしている。 あぁ、胸糞悪い。もとより自己犠牲の気はあった。我先にと率先して巨人の討伐に向かうのがそれだ。死にゆく仲間を見たくない、犠牲は少ない事に越したことはない。そういう思考から成り立つ自己犠牲精神。 反吐が出る。気持ち悪い偽善からくるものではないのだから余計に俺を苛立たせるには十分で。だからと言ってアイツの決意を改める事は出来ないのだろうと理解しているから尚の事腹の虫は活性化する一方だった。

嗚咽と努めて冷静な声が静寂に霧散する。きっと腕章を手放したのだろう。あんなにも離すまいと縋るように握りしめていた筈のそれは、持ち主だった部下の望まぬ手に渡ったということか。 あの鈍感ぼっちを選んだ者の末路だ、どうか諦めて安らかに眠ってくれ。聞き分けのいいガキは嫌いじゃない。まぁ、態々言わなくとも分かっているとは思うが。 お前が命を賭して守った女は馬鹿な道を選んだが、本質は変わらない。それで勘弁してくれと切に願う。形見と言うものは形ある物だけではないのだから。


「……褒められたもんじゃねぇな」


泣きはらす新兵が走り去るのを確認し、入れ違いに入室すれば驚いたようでどこか諦めた様子のが俺を一瞥する。どうやら腹を括ったらしく、もう一度視線を此方に向けた。


「悪趣味」

「お前に言われたくねぇよ」


否定はしない。何故なら自覚済みだからだ。しかし自ら必要悪と決めたこいつも紛うことなき同類だろう。辛い選択だったとしても俺からしてみれば悪趣味の他ならない。つくづく難儀な性格してるなクソぼっち。


「どうしたんです、私の判断を笑いに来たんですか? 生憎と付き合っている暇はありませんよ……これから遺品を届けに行くんですから」

「なに、お前の泣きっ面を拝めると踏んで来ただけだ。用が済んだら帰る」

「……一生居るつもりですか。申し訳ありませんが私は泣きません。諦めて帰ってください」

「相変わらずなそのナメた口を削いでやるから面かせクソぼっち」

「絶対嫌だ」


頑として突慳貪な姿勢を崩さない様子は痛々しさを通り越して呆れる。こいつはどこまで――俺までも拒絶してぼっちに磨きをかけるというのか。許さん。たとえエルヴィンの野郎が許してもこの俺が許すわけがねぇ。 本当に世話のかかるぼっちだ。そんな生気の篭っていない目をこっちに向けるな胸糞悪い。いつもの真摯な瞳はどこに行ったんだ。ナイフ投げて潰すぞ。それとも何か、この俺をおちょくってんのか。


「なん、ですか……」

「……うるせぇ。来ないから態々こっちから出向いてやったまでだ」


言いたいことはクソほどある、が。今はその目を見れないようにするだけに留めておいてやる。そう意気込みその小さな頭に手を乗せれば計画通り。よし、そのまま瞑っとけ。 次に見えるそれが胸糞悪いものだったら容赦しねぇと言外に警告しながら、片手で掴み持てそうな頭を叩き撫ぜた。その下でくしゃりと顔を歪ませるのを確認し、存分に泣けばいいとそう思う。 頑ななこいつは終ぞ涙を流すことはなかったが、それで良い。見えずとも心のどこかで泣き喚いているのは分かっている。どんだけ長いことこいつのお守りしてきたと思ってやがんだ。
ナメてくれるなよ、この不器用で馬鹿なクソぼっちが。





fin.






ATOGAKI

兵長の話。一番の理解者は誰にも譲りたくないというかなんかもうツンデレ、そんな感じ。そしてその考えと対処の仕方は的確なのでした。