She never looks back















 ―勝利を掴め―














次の壁外調査まで残すところあと半月と差し迫った頃。の執務室には忙しく人が出入りしていた。 珍しい事にいつものハンジやリヴァイではなく後輩先輩と多岐に渡る。

臭いを嗅ぎに来る人間は相変わらずの様で人が捌けた頃合に顔を覗かせては居るが、それはさておきが執務室を与えられてから早々ない出入りの多さだった。


「草麸分隊長、巨人の生態調査の資料です」

「そこに置いといてください」

「次の壁外における作戦資料です」

「印が不必要ならそこの上に」

「次の任務における同意書を持ってきました!」

「すぐ読みます」


新米後輩が立て続けに訪れる室内では内心てんやわんやになりながらも冷静さを保つのに必死だった。 昨日まで単独任務に明け暮れていたのだ、そのしわ寄せが一気に押し寄せている訳で、エルヴィンもそこを考慮してくれてもいいではないかと悪態つく。

既にどこに何を置いてもらったか定かではない。ただ急ぎの書類だけはその場ですぐに目を通し印を押していく。 書面の内容など目が滑り頭に入れることは出来なかったという。これでいいものか、リヴァイが居れば雷が落ちていたに違いない。その証拠に。


「おい、草麸。お怒りの兵士長様から言付けだ。『ミスが多いいい加減にしろ』とな」

「ではこうお伝えください『それを校正するのが貴方の仕事ですネチネチ小言言う前に仕事しろ』と」

「俺はお前たちの橋渡し役じゃ無い。ふざけるな」

「乗りかかった船なんですから諦めてください先輩。私は忙しいんです」

「後で覚えてろよこのクソ生意気な後輩め」


の先輩にあたる兵士を介して雷を送ってくれるのだから指摘されたミスとは目に余るものだったのだろう。リヴァイ関連の予想は外れた試しがない。 しかしこれ以上先輩の手を煩わせるのは忍びないので小言を貰わないように落ち着いて書類や資料を捌ける様に小休憩を挟むことにした。


「ミケさん。紅茶でもいかがですか」

「スンっ…頂こうか」


そろそろ注ぎどきだと思いポットを傾けようとした瞬間に扉を開けたミケに目も呉れず小休憩に誘うは棚から来客用のカップを取り出す。 誘いに乗るミケはその大きな図体をソファに沈めると、漂う香りに今一度鼻を鳴らした。

は己より古参であるミケを階級で呼ばない。 たまに執務室の匂いを嗅ぎに来る彼をスルーするという先輩へあるまじき態度からも見受けられる様に、このふたりの間には上下関係などは効力が薄い。 なぜかと問われれば至ってシンプルな答えが返ってくるだろう。ただ単に仲良しなだけである。こう見えても。


の淹れる紅茶は相変わらず香りが素晴らしいな」

「そうですね。どっかの誰かさんがうるさいもので腕だけは自信があります」

「皮肉なものだ。だが…巨人を殺すだけの腕よりは人間味があって良い」


カタリと音がたちカップが持ち上げられる。口をつける前に心ゆくまで香りを堪能するミケは口角を上げ満足げに微笑んだ。 そんな彼を一瞥するはこれで小休止の言い訳ができたなと悪巧みを脳内で組み立てる。 しかし後でミケが自ら一服しにくる訳がないだろうとエルヴィンに窘められるのだが。


「明日の任務の内容は聞いたか?」

「…あぁ、アレですよねアレ。知ってますとも。ちゃんと聞いてました」

「おかしいな…確か書類に書いてあっただけだったと記憶してるが」

「やっべマジかよハメたなちくしょう。多分まだ机に置いてありますよ」

「いや、印を貰って既にエルヴィンの手に渡ってるぞ」

「もしかしてさっきの…あぁ大丈夫ですちゃんと読みましたとも。間違ってももう一度確認しに団長を訪ねたりしません」

「実はな…あの担当はリヴァイなんだ。書類があるならあいつの執務室だぞ」

「ちょっとさっきから何なんですかミケさん。もしかして私をおちょくってます?」

「何、他愛もない雑談だ。楽しいだろう?」

「そう思ってるのはあんただけだ」


意地の悪いミケの話にどっと疲れが出てきた。小休止の筈が逆に疲れているとはどういうことだ。これだから相手にしてこなかったのだとふと思い出すである。


「そうカッカしないでくれ。肩車しないぞ?」

「それは勘弁。これから外で肩車してくださいよ」

「よし行くか」

「わーい」


人気がないのを確認して外で大好きな肩車をしてもらった所で、執務室の窓から目撃していたリヴァイに怒られるのは数分後の話。





 ♂♀





翌朝。昨日リヴァイにお叱りをたんまりと頂き任務の確認をし終えたは晴れない心を胸にエルヴィンの執務室で居住まいを正していた。 もちろん書類の確認を怠った事はエルヴィンの耳にも入っている。現時点での会話はその事に関してのものだった。


「君は…本当に執務仕事が苦手だね。次からは口伝にしよう」

「いえ、次からは善処します。なのでお手を煩わせぬよう今までどおり書面で大丈夫です」

「そう言って同じ過ちを犯したのは何度目かな?」

「5度目でございます本当に申し訳ございませんでしたお許し下さい」


居住まいを正す――とは言うもののただ単に座っているわけではない。正座だ。 そして謝罪と共に土下座をする。ただでさえ小柄な彼女が上半身を床につけることによってエルヴィンの視界からは見えなくなってしまった。

誠意は十分に伝わっているのだがいやはや。こんな姿を他の者に見られては冷徹人間というレッテルも瞬く間に剥がれてしまうだろう。 憂いたエルヴィンはこの案件を流すと共にに立ち上がることを許可する。そして早急に今日の任務について口を開いた。


「リヴァイから聞いているとは思うが…」

「そりゃ聞いてますともご安心ください」

「今までの素行を鑑みれば不安になるのも致し方ないだろう…今回の任務は先日の任務の仕上げだ」

「承知しております。しかし何故私も同行しなければならないのでしょうか。兵長だけで十分だと思いますが」


手を組み威厳をそのままに静かにを見据えるエルヴィンは彼女の疑問に答えようと瞼を閉じる。 勿体ぶっているのだろうか、そう思わせるには十分な間だった。


「…君のポーカーフェイスを信用している」


瞼が持ち上がったと思ったら視線は横に逸れている。そうか、ただ言い淀んでいただけなのだと理解する。


「あぁそうですか。何度も言いますけど私はただ表情筋が衰えているだけだと――」

「出発は1時間後だ。準備を怠ることのないようにしてくれ。解散」


絶対に反論されると分かっていたのだろう、つかさずの言葉を遮ったエルヴィンはその後視線を合わせる事は終ぞ無かった。


「……」


してやられた気分だっぜ。

――そして1時間後。用意された馬車に乗り込むと先客であるリヴァイが座っていた。不遜な態度で腕を組み小窓の外を眺めている。 向かい側に腰を下ろせば馬車は発進し、車輪と馬の蹄の音が耳についた。沈黙が気まずい。昨日の今日なので居た堪れないというのが本音である。 こうなれば今朝の事を話題に会話を弾ませよう。柄にもない事を思いついたは些か正気ではないらしい。


「リヴァイ…団長にチクったな」

「当然だ。大事な任務の書類を確認してなかったなんぞ重大な問題だろうが」


リヴァイは辛辣の言葉と共にチラリと一瞥しただけで、顔は依然として外に向いている。 腕を組み、足までも組んでいる姿は様になってはいるがそれに比例して威圧感が半端ない。 このままふざけた態度をしたらヤバイのではないか、とは思うもののの口は止まることなく動いてしまう。


「これだから頭の固い人間は…」

「どうやら反省していないようだな。目的地まで走って行くか?」


漸く顔を向けたリヴァイの顔を直視することは残念ながら出来なかった。いやホント怖い。


「冗談ですよ、冗談。長い道のりなんですから和気あいあいと行きましょう」


咄嗟に弁解する姿は情けない事この上ないだろう。両手を胸の辺りまで上げ手のひらをリヴァイに晒しどうどう、と馬を宥める仕草をする。 なんだかよくわからなくなってきたがやはりこの手の問題を処理するのは不得意なのだと実感しただけであった。

そんなの様子を見据え、眉を上げたリヴァイは思わず嘆息する。全く世話の焼ける女だ。 そう言いたいのも山々だが致し方ない、の奇行の原因でもある誤解を解くために口を開いた。 思ったより優しい口調になってしまったのは事故だ。そういう事にしておく。


「もう怒ってねぇよ。変な気を使うな。敬語も却下だ」


はたと目が合う。前髪から覗く瞳は小さく揺れていて、思った通り昨日のことを気にしていたのだとわかる。 怒られるのは慣れたものだろうに、リヴァイの寡黙な態度が恐怖を煽ったらしい。少しイジメ過ぎたか。


「…悪趣味」


これに懲りたら同じ過ちを犯さないように尽力しろ。という訳でお説教はこれで本当に終わりを迎えることとなる。




そんなこんなで数時間後、目的地へとたどり着いたふたりは馬車を降りた。 そこそこの規模を誇るこの都市には商業が盛んで市場やらなんやらと賑わいをみせている。

華やかな街だがその裏に蔓延る悪というものは存在する訳で。ふたりの目的はそれだった。 大通りから路地へ進み、そのまた脇道へ。奥の奥底。賑わいは影かたちもない薄暗い小道に出れば薄汚れた一件のバーがある。


「汚ぇな」


リヴァイの言葉に無視を決め込みは気乗りしないままバーの扉を開け放った。見慣れない顔だな、店内に居た人間の顔はそう物語っている。 気にしている暇はない。恐らく動揺を見せてしまえば取り囲まれてしまうだろう。側には人類最強が居るのだからいなすのは簡単だが事を荒立てては任務に支障をきたす。

無表情をそのままにキャスケットのつばを目深に被り直すと店主とおぼしき男の前に歩み寄り口を開いた。


「美味い酒を探している。値は問わない。あるなら飲ませて欲しい」

「おいおい初顔のあんちゃんよ…覚悟はあるのかい?うちの酒は手ごわいぜ」


店主とおぼしき男はさりげなく置かれた硬貨を一瞥し、口角を上げ下種た笑みを浮かべ言う。この反応を見れば合言葉に間違はないだろう。 数日前から秘密裏に己がかき集めた情報を思い返し、その信ぴょう性は確かなものなのだと確信する。は内心気乗りしないもののそれをおくびに出さず目を眇め言葉を返した。


「望むところ。強ければ強いほど燃える」

「そうかい。来な、蔵に案内してやるよ」


親指を背後に突き出し店主とおぼしき男は背を向けると鍵のかかった扉へ向かう。ポケットから鍵を取り出すと開錠しふたりを招き入れた。 中に入ると壁にランプが吊るされただけの廊下が眼前に広がる。数歩進めば地下へと続く階段があり覗き込めば終着点は完全な闇に覆われ視認することは叶わなかった。 店主とおぼしき男がランプを手に取り歩き出せばふたりもカルガモ親子よろしく後に続く。結構な深さがあるらしい、終着点へ着いて上を見上げれば先ほどと同じように何も見えなかった。


「新顔のお前らに忠告だ…マイナスになる前に切り上げた方が利口だぜ?うちの追ってから逃げるのは容易じゃねぇからな」

「言ったはず…望むところだと。イカサマされようがプラスにしてみせる」

「随分強気だな。嫌いじゃないぜ、お前みたいな奴はよ」


笑みを一層深くした男が扉を5回ほど叩くと中からディーラー服を身に纏った男が姿を現した。何言か交わしふたりを見下ろすと室内へ通す。 中には数人の目つきの悪い男3人が既にゲームを初めていたらしくカードを片手に此方を一瞥するも特に気にした様子もなく顔を戻した。

お察しの通りここは賭博場だ。壁内の至るとろこに存在するそのひとつにたちは潜入している。 目的は勝った者だけが手に入れることが出来ると言われている『あるもの』を回収する為。それを団長の元へ持ち帰ると言う単純であって実に難しい任務だ。

は先ほどエルヴィンが宣った通りポーカーフェイスをかわれてこの任務を託された。その他にも理由はあるのだがそれはまた後のおはなし。 リヴァイはいざという時のボディーガード含め地下街出身と言うだけあってこういった場を熟知しているのも選ばれた大きな要因だろう。

ふたりは指定された席に着き現金をチップに替えればゲームの参加権を得た。


「慎重に頼みますよ、リビさん」

「お前もな、ジンよ」


視線を合わし小声で言葉を交わすと共にゲームは始まりを告げた。 まずは場にチップを1枚ずつ出し合う。配られるカードは5枚。の手札にはJの文字は無かった。


「パス」

「ビット…20」

「ドロップ」

「50」

「…コール」


おいおい、しょっぱなから飛ばしすぎだろ。周囲の視線はへと向けられるが、皆の視線を一身に浴びる本人は顔を変えず左端の男に早くドローしろと言外に訴えるだけであった。 視線で催促された男が数枚ドローしていきは3枚ほど手札を交換し手を止める。リヴァイは2枚交換した。全員がチェックを口にし手札を公開していく。


「スリーカード」

「フラッシュ」

「フォア・カード」

「…ストレート」


の視線がリヴァイに向き「その手札ならドロップしなよ弱すぎでは…本当に地下街出身なの」「うるせぇたまたまだ」なんて視線だけで交わされるもその会話に気づくものはその場に存在しなかった。 それからゲームは3回続き、ひとりの男がチップを使い果たした事で終わりを告げた。ゲーム数が少なすぎるとは思うがどっかの誰かさんが加減無しのレイズをしまくった所為である。 そして勝者は言わずもがなレイズをしまくった張本人であるだ。手元に置かれたチップは5つのタワーを築いている。強すぎだろ、とリヴァイは申し訳程度に残された己のチップを見下ろしながら思った。


「チップを100追加する!」


使い果たした男がディーラーに向かって吠えた。店主とおぼしき男がうちの借金取りからは云々言っていた筈だがどういうつもりなのか。 少しばかり眉間に皺を寄せながらは男を見据えると何故か目が合い言葉を投げかけれれるのであった。


「お前と一騎打ちだ…ブラックジャックでな!!」


面倒なことになった。ふたりは顔を見合わせ嘆息する。ゲームに勝ったのだから証拠を手に入れられるのも目前なのに、と。 と言うかこの男に勝負を嗾けられても景品は貰えるだろう、しかしディーラーは首を振るばかり。

恐らく店の者であるディーラーは新参者に景品を渡したくは無いのだ。初めて来たと思ったらいきなり馬鹿勝ちする奴なぞ信用なるまい。 はまぁこれも想定の範囲内だと言わんばかりに今一度嘆息を漏らした。


「…構わない。その前に喉が渇いた、酒を1杯頂きたい」


ディーラーが背後の酒瓶を取り出しグラスに注ぐ。その間リヴァイは声を潜めに耳打ちをした。


「勝てる見込みはあんのか」

「先ほどのゲームで証明したとばかり思ってたのだけど」

「確かに、それもそうだ。なにか手伝う事はあるか」

「…いや、そのまま観戦してて構わない。タネ明かしは後ほど」

「あ?」


の言葉に眉根を寄せるリヴァイだったがお酒が運ばれてきた事により問い詰めることは叶わなかった。 そしてゲームは再び始まりを告げる。は50枚ほど積み上げられたタワーの5棟を前に押し出し、男は負けじと手持ちのチップ全てを賭けた。


「ラディさんよぉ…初っ端から全部駆けちまって良いのか?ダブルもインシュランスも出来ねぇぜ」

「うるせぇよ!勝ちゃ良いんだ!なんならブラックジャックになってやろうか!?」


両者とも持ち金全てを駆けた戦い。男は一歩も引かないというように配られたカードを睨み上げる。 はいつも通りの無表情で手札を確認するとお酒を煽りテーブルに置いた。これは流石のリヴァイにも読めまい。 観戦する他の男2人はしきりにの様子を窺い好奇な瞳を向けている。 ディーラーに配られたカードの1枚目はハートの4。2枚目は伏せてある。そして男が口を開いた。


「ヒットだ!」


次いでディーラが言う。


「ヒット」


ふたりに対しは。


「スタンド」


そう宣言しもう一度お酒を煽った。

男は表情の読めないに苛立ちを感じながら1枚追加しカードを見てニタリと笑う。それは勝利を確信する顔だ。 まさか本当にブラックジャックなのだろうか。リヴァイが勝負をする3人を見回すと同時に男とディーラーが手札を場に展開した。 半拍ほど遅れても続く。結果は。

ディーラーのカードはハートの4とスペードの5、そしてダイヤの10。合計19点。
男はクローバーのAとハートの2、最期はダイヤの7。合計20点。
はと言うと。


「ブラックジャック」


ダイヤのKとスペードのA。見紛う事なきブラックジャックであった。


「い、イカサマだ!!貴様イカサマしたな!?そのグラスも怪しい!!」


男が立ち上がり叫ぶ。ディーラーは何も言わない。は残りのお酒を一気に飲み干し片手を差し出すとディーラーに言った。


「景品。今度こそ頂こうか」


かくして無事に景品を受け取ったとリヴァイは帰りの馬車の中でカードゲームに興じていた。 ふたりの足元に景品が入った箱を横たえらせ、そこに捨てたカードと山札が置かれている。 さっきは賭博場で実際に現金を賭けていたのだ、ただ普通にやるだけでは面白くないという事でふたりは『エルヴィンからの報酬を貰う権利』を賭けて勝負とのこと。

リヴァイが3枚手札を捨て同数を取れば舌打ちをひとつ。 は4枚交換し手札を眺めるその表情は変わることが終ぞ無かった。

そして同時に手札を見せ合いっこ。結果は。


「ふん…ストレートだ」

「…ワン・ペア」


リヴァイは相変わらずの役だがは先ほどの強さはどうしたと言いたくなる程の結果だった。 ちなみにこれで5回目のゲームだ。勝敗はリヴァイのストレート勝ち。言わずもがなは惨敗である。 何故なのか。リヴァイの問い詰めにはタネ明かしをば。


「…お察しの通りイカサマですよ。このトランプ持ってる時点で気づいてると思ったんですけどねぇ」


それもそうだ、リヴァイは納得する。この場でゲームをしようと言いだしたのはリヴァイだがどこからともなくトランプを出して来たのはだ。 しかもスペードのAが不在でクローバーの8が2枚あるという有様。この不可解な状況は言うに及ばずである。


「ディーラーがカードを調べ始めたらどうするつもりだったんだ」

「それはありえない。あぁいった場ではディーラー自身がイカサマするからね。態々自分の不正を明かすようなマネはしない」

「…酒を頼んだのもなにか裏があるのか?」

「あれはカモフラージュの様なもの。グラスを使って何かするのではと注意を引いておいてノーマークになったその横で裾からカードをすり替える。タネ明かしはこれで終わり」

「どこでそんな技術身につけてきたんだ…今度ゲームするときは身体検査必須だな」

「昔ちょっと賭博場で働いていた事があるってだけだよ。仕事以外ではイカサマしない主義だから安心するといい」


リヴァイだってイカサマはできる。しかし今回は『慎重に』と釘を刺され何もしなかった。まさかそう言った本人が大胆な行動をするとは思いもよらぬ。 任務であるのだから何かしら手段を持ち合わせていると分かってはいたが『物凄く引き運が良いのだろう』程度にしか考え至らなかった己を笑ってやりたい。 つくづく己はこういった任務は向かないのだと再確認するリヴァイであった。


「ちなみにポーカーは本当に運が良かっただけだよ」

「あ?たった今惨敗してんじゃねぇか」

「…捨て場の4枚をめくってみるといい」


そう促されリヴァイがが捨てた4枚のカードを捲る。するとそこには記号の違うQが4枚ある訳で。


「てめぇ…この俺に手心を加えるとはいい度胸じゃねぇか」

「いや、だって…ねぇ」


の言い分は不正で勝ち取った景品をエルヴィンの元へ届けた時に明らかとなる。


「ありがとう。いやなに、この酒はその手の場所でしか入手できなくてね」

「おいまさか…そんなくだらねぇ私情で俺たちを利用した訳じゃねぇだろうな…?」

「はははそう睨まないでくれ……味は保証するよ。報酬は各自この酒1本ずつだ」

「この野郎――」


箱を開けてみれば3本のお酒。何か危ない物なのではと勘ぐるリヴァイだったが受け取ったエルヴィンはそれはそれは嬉しそうに微笑むものだから杞憂だと悟った。 しかし、だ。この酒が欲しいが為にを数日前から情報収集に駆り出し、剰えリヴァイまでも巻き込んだと言うのは如何なるものか。

憤りを顕にするリヴァイの隣では内心苦笑を漏らした。彼女自身賭博場で働いていた事があると言う事はこの酒の存在を知っていたという訳で。 飲んだこともあれば興味もなく、情報を集めている時点で大凡の察しはついていたのだから馬車の中でわざと負けたのだった。

まぁ味は私も保証するよ、そう言いながら言い合いをしているふたりに振り返る事なくその場を後にする。 廊下から見える窓の外ではミケの隊が訓練に励んでおり、どうせなら訓練ついでに肩車してもらおうと外に向かうのであった。


「気乗りしなかったけど思わぬ収入…今度ミケさんにお土産買ってこようかな」


肩車のお礼に、との独り言は誰もない兵舎入口に霧散した。









END.













ATOGAKI

ミケさんと絡みたかった話。設定に書いた通りミケさんに肩車をしてもらうのが好きなのです。

後半はどうしようか考えあぐねていて数ヶ月間放置してたんですが過去を固めたからそれに掠る話しにしようと思いつきそのまま書きあげました。
暗い話はお腹いっぱいなのでオチをしょうもないものにしてみました。楽しかったです。ゲームのルールは基本的なものとチップの賭け枚数は割と自由と言う裏設定。