She never looks back
「にリヴァイ!奇遇だねー!私たち今会議から帰ってきたとこなんだ!」
しばらくの間ベンチで普段とは乖離したような時間を共有していたふたりの前に通りがかったエルヴィンとハンジ。邪魔するのも野暮かと思ったがそろそろ帰り支度をせねばなるまい。
人の恋路を邪魔する者はなんとやらと言うが生憎乗ってきた馬車の馬は大人しく。と別れたリヴァイはいつもの仏頂面だったが内心惜しんでいるだろうことは容易に察せてしまうふたりはお互いに顔を見合わせ苦笑するのだった。
しかしなんだ。何か見てはいけないものを見てしまった気がするのは何故だろうか。人類最強の兵士長と単独部隊隊長の冷酷人間が大衆の面前で仲睦まじく『でーと』なるものを謳歌している姿なぞ。
帽子を被っているとはいえ応援したい気持ちも山々だがこのふたりはもう少し立場というものを弁えた方がいいかもしれない。エルヴィンとハンジはお互い別の方向を見ながら今一度苦笑した。
向かい側には相変わらずの仏頂面が腕を組み何かに思いを馳せていたとか、なんとか。
―話をしよう:4(last)―
夕餉一歩手前なそんな時間帯。どうせならレストランで食事してから帰ろうと提案するハンジに同意した彼らはを迎えに行くついでに昨晩と同じく馬車を走らせた。
リヴァイは2日の間にこれで3度目の訪問になるのだが既に決まってしまった事、どうせ反対したところで聞き入れてもらえまいと抗議を飲み込んだ。まぁ美味しい御飯にありつけるなら何でもいい。
一方、ワインで頭がいっぱいなハンジは置いといてエルヴィンはどうを同席させるかを考えていた。
レストランの表向き上ではが調査兵団に所属している事を隠している。兵士である事自体公にしていないのだ。
それは自ら申し出た事だ。何かあった時の予防線といったところか、それに調査兵団は世間であまりよく思われておらず経営に支障が出ることを恐れてのものだった。
従って顔が割れているエルヴィンやリヴァイと共に御飯を食べようものならやはり色々と不都合なわけで。だがそれは支配人の配慮により杞憂に終わる。
「次からは事前に予約してくださいね。ご飯時前という事もあって個室が空いていたから良いものの……」
通された個室の席で待ち構えていたに苦言を頂いたのだが、まぁそれは良しとしよう。エルヴィンは爽やかな微笑みを携えながら他ふたりと共に席に着いた。
何も言わずフルコースが運び込まれこれが身内の特権かと更に微笑みを深くするのである。
「追加情報をば。ヘルド卿は完全に他のお家から手を切られます」
一通り食事を終え頃合を見計らっていたは声を落とし口を開く。エルヴィンは傾けていたグラスを置くと待ってましたと言わんばかりに微笑んだ。
あのが確証のないものをそのままにしておく筈がないと見越していたのだろう、間を置かず紡ぐ言葉はまるでマニュアルを読み上げるかのように口を突いて出た。
「そうか。では早々に見切りをつけて鞍替えでもするとしよう。搾り取る手筈は?」
「既に整える準備に取り掛かって居ます。ここのコネを利用しましたけど足がつく心配はないかと」
「ならば帰還後早急に話し合う必要があるな。休暇明けで申し訳ないが君には息つく暇もなく馬で駆けて貰う事になるだろう」
「こうなることなんて分かりきっていましたよこんちくしょう」
エルヴィンの態度もそうだがこの一件を託された時から分かっていた流れには苦虫を噛み潰した。不平不満とまではいかないがただ彼の掌の上と言うのが何とも名状し難いのだ。
休暇だかなんだか言ってはいるが、結局のところまともに休めたのは本日3日目の日中だけで後はずっと働き詰めである。
いい加減心身共に休みたいという思いがひしと伝わってくるの態度にエルヴィンは苦笑する他ない。
他の任務ならいざ知らず今回はの実家のコネが関わっているのだ、彼女の代理は誰にも務まらないのだから致し方あるまい。果たしてコネを使わざるを得ない状況にした張本人に悪気はないのか。
それは兎も角、この一件が終われば矢継ぎ早に壁外調査に向けての準備が待ち受けている。どうやらの休みは暫くなさそうだ。
「そうだな……ひと段落したらきっといい事があるかもしれない。そうだろう、リヴァイ?」
「……あ?」
「そうそう、きっとリヴァイがご褒美をたーんとくれるよ。良かったじゃん」
「はぁ……期待しておきま、す……?」
エルヴィンとハンジの企み顔に当事者ふたりは訳も分からずといったところか。首をかしげるにアイコンタクトを交わす2人。
唐突に名を挙げられて眉根を寄せるリヴァイだったがふたりの思惑に気づけばを差し置いて満更でもなさそうに紅茶を啜るのである。
「ちゃん、ちょっと良いかな」
その直後だ。個室のドアを躊躇いがちに開けカロスが顔を出した。手招きに従い席を立つの表情はいつも通りの無表情に戻っている。
の態度の理由はエルヴィンとハンジには知る由もない事だが唯一知っているリヴァイは廊下に出て行くを流し見てはカップをソーサーに置いた。
「なになに、なんか意味有りげ?家族の前で無表情になってるんだけど」
「ハンジ、野暮な詮索はするものではないよ。訳知り顔も居るようだがね」
「……勘ぐるんじゃねぇ。クソしてくる」
ハンジから好奇な目を向けられながら今しがたが出て行った扉の外へ身を翻す。それを見送るふたりは帰り支度でもしておくかと注がれたワインを飲みながら荷物をまとめ始めるのであった。
♂♀
カロスに手を引かれたどり着いた場所はレストランの裏口から少し離れた場所。厨房の窓から漏れる光が辺りを照らし些か不気味な雰囲気を醸し出している。
こんな忙しい時間帯に持ち場を離れても良かったのか、中から聞こえてくる喧騒を聞きながらは目の前で首の後ろを摩るカロスに向き直った。
昨日の今日でまさか呼び出されるとは思っていなかったが、何を言われようがの意志は変わらない。意を決し口を開くカロスの瞳を見返す。
「やっぱり、君を諦められないんだ。昨日の発言は反省してる……でも、どうしてもちゃんを好きな気持ちが抑えられない」
の与り知らぬところだが、カロスは幼い頃からの事が好きだったのだ。それをこんな短期間で諦められるはずもなく。たとえ悪あがきだと滑稽だと言われようが構わないと言わんばかり。
彼にリヴァイの言葉もの思いも伝わっていなかったのだろうか。そうは思うもあの反省した様子に嘘偽りはない筈で。
やはりと言うべきかまさかと思うべきか。真っ向から真摯に訴えかけてくる視線に対しての目元には影が落ちた。
「……私には分からない。どうしてそんなに固執できるのか。そりゃあ……誰かを守りたいだとか、個人を信頼しすぎる事はあるけれど……でも私はそこまで想われる程出来た人間じゃない」
カロスは兵団内でのを知らないのだから当然か。今までどれほどの命を救えなかった不甲斐ない人間なのかという事を。
昔の――まだ何も知らなかった頃のしか知らない人間の言葉は彼女にとってどう響くのだろうか。
決して己は幸せになってはならないなぞと言うつもりはないが、兵士を辞める事は何より自身が許すまい。
まだ戦いたいのだと。受け継いだ意志と共に生きていきたいというの思いはこの上なく確たるものだ。
それを覆せる人間はこの世のどこを探しても見つける事は出来ないのでは、とさえ思う。
――かの信頼を置く男だって、が兵士を辞める事を良しとしないだろう。たとえいつ死ぬかもわからない場所だとしても。それでも戦えと叱咤してくれるに違いない。
彼こそがの本質を理解する最たる人間なのだから尚の事。だからこそ信頼しているのだ。それに死ぬときは彼の目の前で死ななくては。
「ちゃんはさ、ずっと僕を守ってくれていたよね。だから、これからは僕が君を守らせてほしいんだ。身を危険に晒す事のないように、この平和な王都で一緒に暮らして行きたい」
相容れない、とはこの事なのだろうか。決してカロスを否定しているわけではない。しかし、の思想とは真逆な言葉に瞼を落とす事しか出来なかった。
まるで水と油だ。それは永遠に交り合う事のない存在。やはり己は王都で安寧に浸る事は出来ない人間らしい、とは内心で苦笑を漏らした。
お店の支配人として毎日を目まぐるしく駆けずり回るのも素晴らしい事だ。しかしはいつしかお手伝いをすればするほど、つくづく兵士として戦う方が性に合っていると実感していて。意を決して開かれた瞳は紛う事なき兵士のそれだった。
「私は守られるよりも守りたい。そして、その為に共に戦いたいと思える人と生きていきたいと思えるようになった」
叶うならば壁内ではなく、壁外で。死ぬならばリヴァイの目の前で。ここではない、調査兵団という場所で生きていきたかった。
「それに、実はこう見えても分隊長なんだよねぇ。まぁ居ても居なくてもさして変わらないと思うけど、私はこの立場に誇りを持ってる。自由を与えていただいた大切な『居場所』だから」
レストランも大切な場所である事には変わりない。けれど、己には勿体ない安寧。ここにはもっと相応しい人間が居るはずだ。そうは思う。
そして、にとって『居場所』というものは大きな意味を持っている。両親を亡くしたと同時に失った居場所。それから手を差し伸べてもらえた居場所。
売られ失われた居場所。再び戻れた居場所。不甲斐ない己を見捨てずにその上分隊長と言う居場所を与えてもらった。
だからこそ居場所と言うものは尊い。だからこそ、在るべきそれ相応の人間でないと意味がないのだ。には調査兵団が相応しい。このレストランにはもっともっと相応しい人間が居るはずだ。
ただのエゴだろうか。適材適所とは自分勝手な意見だろうか。しかし、もしがレストランに帰ってきたとしても調査兵団への未練は断ち切れまい。
それには調査兵団から追い出されようがここに帰ってくる気は毛頭なかった。貯蓄は大いにある。またどこかに浮浪しようと考えており、やはりそれは適材適所な思考から成り立つもので。
器用でなければ素直でもないの紛うことなき意志に他ならない。
「だから私は戦い続ける。みんなを守りたいから。その中にカロスさん、貴方も含まれているんだよねぇ……大きなお世話かもしれないけれど」
「そっか……君は何を言っても僕に守らせてくれないみたいだね。参ったな……僕なんかよりも逞しいよ、ちゃんは。そんな子を守るだなんて烏滸がましかったかな」
――思い返してみれば降りかかる不幸よりも幸運の方が多いかもしれない。恵まれている、と思わなければ罰が当たりそうな程に。天涯孤独になるわけでもなく、職に困ることなく生きては行けたのだから。
欲を言うなればここも失いたくはない。実家として。数少ないよすがとして。だからカロスとの関係を穏便に済ませたいというもの。どうやら恵まれた環境で育ってきたゆえに心は強欲になってしまったようだ。
「何言ってるの。私は誰もが認める干物女代表。逞しくてなんぼのもんよ」
「ちゃんが……?そんな事はないよ!兵団の人は見る目がないんだ、君はありのままでだってこんなにも綺麗なのに!」
「そう言ってくれるのはここの人だけだよ……家族に言われても信憑性なんて無い……」
「やっぱりそんな場所に身を置くより僕に嫁ぐしか……」
「この話はやめよう。振り出しに戻ってしまいます」
いつものノリに安堵する己がいる。カロスの気持ちも分からない事もない。それだけ強く思うという事はにだってあるのだから。
もし、リヴァイに突き放されたらと思うとそれはもう身を裂かれるよりも辛いだろう。エルヴィンだってハンジだってその他の気心知れた者に兵士としてではなく捨てられてしまったら。
なんて考えてしまうなぞ、それこそ烏滸がましいだろうか。これは恐らく墓まで持っていく本音だ。絶対に口を滑らしても拷問を受けたとしても言うまい。そう心に決めるであった。
「もう私みたいなわけのわからない人間じゃなくてもっと普通の女の子を好きになって、幸せになって欲しい」
「……正直、やっぱり納得いかない部分もあるんだ。何でそんなに兵士という事に拘るのか……辞めてしまえばいいのにってさえ思う。ごめん」
他にも道はあるのに。守るのは兵士じゃなくてもできると思うのに。カロスには理解しがたいのだろう。やはり水と油か――だが、それで良いのだ。
守る対象が平和志向なのは結構な事ではないか。己はちゃんと守りたい人を守れているという証拠なのだから。
「……そう、だよねぇ。職種が違いすぎるし、私も理解してくれとは言えない」
だが同時に家族に理解されないと言うのはこれほどに辛いことなのだと痛感した。
兵団内では冷酷人間になることで理解される事を拒み本心を切り捨ててきたがそれ以外で、冷酷人間の仮面を取れる場所では本質を理解して欲しいと無意識にでも望んでしまっていたのだ。
でなければあんなに楽しそうな表情を見せる訳が無い上に素を曝け出す事なんて到底出来まい。
「――珍しく饒舌にも分かりやすく説明できてやがると思っていたが……難しいものだな、よ」
影を落とすの背後から唐突に聞こえてきた声。まるで今までの会話を聞いていたかのような口ぶりと共に現れた男はその実、結構前から居たという。
は振り返りリヴァイを視認するとやっぱり、と言わんばかりに嘆息した。
「……何でここにいるんですかね」
「迷った」
「嘘コケ。店内は一本道。と言うかどうやってここまで来れたの。厨房を素通りできる筈がない」
「支配人が案内してくれたぞ」
「……」
絶句するを余所にリヴァイはその背後に居るカロスを一瞥する。彼は突然現れた第三者に驚くも目が合えば視線を逸らした。
その理由は言わずもがな。数時間前の出来事なのだ、平然と向き合えるわけもなく、しかも性懲りもなく同じ事を繰り返していると言っても過言ではない行いをしていたのだから当然である。
だがリヴァイは憤る事もなければ問い詰めることもする気は毛頭ない。の意志は確認済みなのだから。それに彼曰く「悪くない」と言わしめるほどの発言を聞いた後だ。怒る理由が見当たらないというもの。
「そろそろ帰るぞ。夜中になっちまう」
「待たせたな、小僧」
「エルヴィンの前でも同じことが言えるか小娘」
「言えませんすみませんでした」
これ以上は不毛だと思っていたところに現れたリヴァイに内心感謝しつつは未だ視線を逸らすカロスを一瞥し裏口へと戻っていく。
結局最後まで理解はしてもらえなかった。しかしの意志は伝わった筈だ。否、『兵士を辞めてしまえばいい』という言葉は彼女自身を否定しているようなものか。
それが悲しくもあり、同時にそのままで良いと思う。理解されないのは慣れている。ただ、もし己が死んだ時に調査兵団を恨まれてしまったらどうしようとは危惧しているが。
「つくづく難儀な奴だな」
「貴方と違って人望は薄いからね」
「まったくだ」
死にゆく中で本質を理解する者も居れば、安全な内地で生を謳歌しながら理解できない者も居る。皮肉なもので彼女の理解者は増えるどころか減っていく一方。
それを望んだのは彼女自身であっても心のどこかでは埋めようもない穴があいて行くのだろう。それを気の毒と受け取るか自業自得だと笑うかは自由だ。
――果たしてリヴァイはどちらなのか。それともどちらでもないのだろうか。真実は彼の中にしかなく、しかし彼は理解者である事に変わりはなく。彼女の選んだもの、それは何なのかを知るからこそカロスに向けて言葉を紡ぐ。
「何故兵士という事に拘るのか納得できないと言ったな。教えてやるよ……こいつの心臓は調査兵団にある。それが答えだ」
は己の意志で兵士になる事を決め、今こうして立てている。戦いたいが為。生き続けたいが為。その根本にあるのは必ず『守りたい』という思いが存在する。
それでも尚納得できないというのならばカロスは諦める他ないだろう。静かな音を立て閉じる扉を見つめていた彼は何を思うのか。ふたりに知る由はない。
♂♀
慌ただしく料理人が行きかう厨房を横目にエルヴィンとハンジが待つ席に戻ろうと歩くふたり。はリヴァイを振り返ると先ほどの言葉を反芻しては茶化すように口を開いた。
「『公』に心臓を捧げたって言った気がするんですけどねぇ」
言わずもがな、照れ隠しである。
「バカ言え、一点集中型のお前が公なんて不特定多数全てに心臓を捧げられるほど器用な人間じゃねぇだろうが」
しかしそんな照れ隠しでさえも分かっているリヴァイはの『建前』を的確に指摘してみせた。
「あぁ……なんか物凄く失礼な物言いだけど否定できない自分が居る」
どうしてこうも彼にはお見通しなのだろうか。言ったことはなかったのに。は面食らったように頬を掻く。
最初はただ壁の外に出てみたいと言う単純な好奇心だ。そして壁外遠征で巨人と対峙する事によって壁内に住む家族、知り合い、仲間、大切な人をこの驚異から守りたいと思うようになった。
外に出られてその上最前線で驚異である巨人を倒せる調査兵団という組織。そこに心臓を捧げると言う事は壁内の守りたい人たちにも捧げるという事に繋がるわけで。
「ただの横着じゃねぇか……」
「ご存じの通り一点集中型だからね。願望と欲望全てに繋がる調査兵団というひとつの的に絞っただけ」
――だからと言って調査兵団がただの的なだけではなく、好きだからこそ心臓を捧げられるのであり決して軽視してる訳じゃない。続くの言葉にリヴァイはため息をひとつ。
「んな分かりきったこと言ってくれるな。好きでもねぇと冷酷人間なんざやってられんだろう」
「……もうあれだね。リヴァイには言葉なんて必要無いらしい。これほどまでに私の心を読める人なんてお目にかかったことない」
「当然だ。これは選ばれし『だいすきな仲良し』が持てる特殊能力であってそれ以外の人間なんぞにそう易々と会得されてたまるか」
「はっ!さては貴様、人知れず修行しよったな!?」
「あぁ。なんてったって俺の場合難易度はイージーらしいからな……面白ぇぐらい楽勝だった」
「ぐぬぬ。なんだか負けた気分」
難易度がどうのこうのはよく分からないが、何も言わずとも理解してくれるという存在はあいた穴を埋めるには勿体ない程の有難味を感じることが出来る。
それで良い。これ以上何も望まないと言わんばかりに先ほどの考え改め、は人知れず微笑むのだ。
数少ないからこそ大きく分けられたそれを比率に換算してみれば失った時の衝撃は大きい。いつか味わうであろうその時が来るまでは、この幸福を感じていたいのだと。
「悔しいけど嬉しい。ありがとう、リヴァイ」
「流石に知らねぇ事はあるがな」
「安心するといい、私は昔も相変わらず干物女だった」
「それについては微塵も疑ってすらいねぇよ」
「私の喜びを返せ台無しだよちくしょう」
本当に期待を裏切らないな、お互いに口角を上げ満更でもないと言外に同意する。それがこそばゆくて前方に向き直ったの早まる足取りは顕著に心情を表していて。
まるで話は終わりだと言わんばかりに先を行くのであった。
かくして帰省と正規ではない任務も終え本部へと帰還するとは再び始まる生活にいつも通り過ごしていく。兵士として
息つく暇もない目まぐるしい日々。これこそが己が望む在り方なのだと、は馬を走らせながら思い馳せた。
帰る間際、こっそりと顔を出してくれた叔母と叔父の言葉を思い出しては頬を緩め、心地よい風に控えめの笑声を乗せ――
『あらあら聞いたわよちゃん。カロスを振ったんですって?うふふ……私もねぇ玉砕するだけだから諦めなさいって言ってたのよ』
『、お前は兵士だ。料理人でも支配人でもない支配人代理だ』
『やだもうお父さんったら相変わらず口下手でそんなんじゃ何が言いたいか伝わらないわよ。ちゃん、お父さんはねぇ貴方は兵士でもあるけどここのお手伝いでもある……いつでも帰ってきなさいって言いたいのよ』
『家族だからな。お前の実家は永遠(にここ)だ』
――たとえ一時であっても実家を切り捨てようとした事を恥じると共に、灯る優しい温もりを確かめるように左胸へ手を添えた。
「心臓を捧げます。みんなの為に。何よりも、自分自身の為に」
だからどうか、これからも守らせてほしいと願いながらの日々は過ぎていく。過去に、今に、未来に繋がる絆に導かれるように。
END.
おまけ
「、褒美だ」
「………しゃがんでどうしたというの」
「肩車してやる」
「………遠慮する」
「何故だ」
「貴方じゃ物足りない……もっと大きい人が良い」
「大丈夫だ、俺のジャックナイフはお前を満足させて――」
「サラッと下ネタに持っていくのはやめて」
「誤解を招くような発言をするお前が悪い」
「そう。私たちは何の話をしていたの」
「肩車だ」
「……この際身長云々は言わない。だけどやっぱり遠慮しておく」
「チッ……堂々と太腿に触れるチャンスだったんだがな」
「そんな事だろうと思っていたよ」
「冗談だ」
「吃驚するくらい嘘くさい」
「冗談だ」
「そう」
「俺は2回『冗談だ』と言った」
「……冗談が冗談だという事は分かった。それで貴方は何がしたいの」
「肩車だ」
「この流れでよく主張し続けられるね。帰ってどうぞ」
「なぁ、よ。俺はミケのように天井事情ゆえに野外でしか出来ないような融通の効かない男じゃねぇ。室内でも余裕で出来るお手軽な男だ」
「ごめんなさい、貴方にそんな事を言わせたいわけじゃなかった。身長の話はやめよう」
「俺を選べ、。俺ならいつ何時どこででもお前を満足させてやれる」
「まだ続ける気ならいいよ、ハッキリ言ってあげる。私はミケさんでないと満足できない体になってしまったの」
「それは錯覚だ……お前には俺しか居ない。いや、俺にはお前しか居ない。目を覚ませ!」
「目を覚まさなきゃならないのは貴方の方だと思う」
「一度だけでいい、一瞬でもいいから早く俺の肩に乗れ」
「『嫌だ』とキッパリ言わないと分からないの。いい加減に――」
「遅い!!さっさと乗れ!!」
「終いには怒られたなう」
リヴァイから突然の申し出。戸惑う。合間に交わされる下ネタトークに戦慄走る、そんなを背後に果たしてリヴァイは肩車する事が出来たのか――!?次回に続かない。
おしまい
ATOGAKI
過去の話と現在の決意?を再確認する話でした。たぶん。語られなかった部分は追々。
おまけは調子に乗りましたすみません。結果はご想像にお任せします(投擲)