She never looks back





※番外:時系列逆行






それは外套さえも意味をなさないほどに寒さ厳しい夜だった。上空の重たい雲からは微かに羽根のように舞う雪が降り始め道理で寒いわけだ、と嘆息する。 人もまばらになった街中を馬で疾駆しそろそろ本部も目前か。急ぐ心を落ち着かせながらフードで狭まる視野にもどかしさを覚え広げようと腕を上げる――その瞬間。

馬が嘶く。視界が反転し来たる衝撃ののちの意識はそこで途切れた。










 ―お届けものです―










そろそろ帰ってくる頃か、時計を確認しエルヴィンはから送られてきた手紙を見返すため手に取った。送り主も宛先も出鱈目な文字の羅列。 筆跡さえも異なるそれの真意は彼にしか知りえないものだ。単独任務中のが秘密裏に情報を伝えるために送ってくる出鱈目でいてその実確実な手段を用いた手紙。

これはその筋から今朝方受け取ってきたばかりだった。内容は暗号化されてはいるもののそれを考案したのはエルヴィン本人であり解読する手間はない。 ふたつに折られた紙を開けば当初の予定通り今夜帰還する旨が書かれている。他に隠された情報がある筈もないと断言できるのは、必要な情報は昨日全て送られてきたからに他ならない。

素っ気ない文章を目で追ってはエルヴィンは人知れず微笑みをこぼした。情報はない。だが彼女の真意は他にあるのだと言わずもがな。


「さすがだ、予定通りの仕事……余程今日までに帰りたかったか。それはそうと、そろそろ報酬を用意しておかなくてはな」


手紙を執務机の一番上に位置する引き出しに仕舞い、その下の段から小箱を取り出す。中にはリング状のスカーフ留め。 単独任務時に正装が必要な場面で彼女は主に男性の身なりをする。その場に応じたものを着用するその中にアスコットタイを巻く場面もあり、その時に使えるようこしらえたものだ。

リヴァイの様に結べばいいものを彼女はそれを極端に嫌う。理由を聞けば「めんどくさい」の一言で一蹴されてしまった。恐らくリヴァイ云々ではなくそれが本心なのだろう。 現に彼が入隊する前からスカーフを結んだ事は無いのだからやはりただの横着か。試しにとエルヴィンの様な紐帯を進めてみれば「それも良いですね」と肯定的な言葉を頂いた。呆れるほどの横着者である。

背後に設えられた窓の外からは雪が垣間見えた。少しばかり揶揄い最後にサプライズで渡してみようか。そう企みながらエルヴィンは小箱を執務机の上に置く。

すると騒がしい足音が聞こえてきた。どこか慌てた様子のそれは彼の執務室前で止まり、間を開けず扉が開かれれば飛び込むように兵士が入室してくる。 一体どうしたというのか。エルヴィンが口を開く前に息を切らした兵士が言葉を紡いだ。


が……!!」

「……詳しく聞こう」


途端に真剣な面持ちになるエルヴィン。にとって先輩にあたる兵士は咄嗟に敬礼をすると乱れる息をそのままに言葉を重ねる。 それを聞いてエルヴィンは動揺を隠すように人知れず息を吐くのであった。






 ♂♀






慌ただしく医務室内を駆け回る足音を聞きながらリヴァイは隠せない動揺を小刻みに拍を打つ指に乗せる。時刻は午後8時。治療を始めてまだ半刻も経ってはいない。 焦りと苛立ちが綯交ぜになる煩わしさに臍を噛む彼の制服はいつもの清潔さはなく、組んでいる腕の辺りは乾き始める血に染まっていた。


「おかしな話だよね……壁外でもあんなに怪我なんてしないのにさ」

「…………」


斜め下を一瞥すれば椅子に座るハンジがのトランクを膝に乗せ背を丸めている。肘を突き組み指から覗く顔は辛うじて彼に向いているものの、眼鏡にランプの光が映射されその奥を垣間見ることは出来ない。


「何やら急いでるみたいだった、って見ていた人が言ってたよ。彼女らしくないね、飛び出してきた馬車に気づかないなんて」


あれは半刻ほど前だった。調査兵団本部から然程距離も離れていない場所で乗馬する兵士と馬車が衝突したと知らせを受けたのは。 かなりの勢いで衝突したとは言うものの幸いにも御者に怪我はなく馬車の中に居た人間も無事だそうだ。 しかし単騎だった兵士は衝撃を直に受け、その身を飛ばされた上に花壇やら街灯やらに至る所を打ち付け終いには家屋の壁に頭から突っ込んだという。

目撃者たちは口を揃えて証言していた。その光景は悲惨なものだったと。そして次いで重ねる言葉は必ず「子供を避けなければ壁にぶつかることもなかっただろう」との事。 なんとも彼女らしい。そしてなんとも彼女らしからぬ失態だ。常に冷静な彼女の意識を散漫させる理由なぞハンジには皆目見当もつかない、わけではないがそれにしても事が事である。


「たまたま君が通りがかって幸いだったね。もう少し遅ければ出血多量で危なかったかも……もしかして虫の知らせでもあったのかい?」

「……さぁ、な」


事故直後、いち早く駆けつけたのはリヴァイだった。本部に知らせが来るよりも前の事だ。むしろ伝令を出したのは彼自身で。

リヴァイはとある理由で外出しようと門を出たところで、さして遠くもない場所から馬の嘶きと人々の悲鳴、どよめく声が聞こえてきた為その場に向かった。

――嫌な予感がする。

エルヴィンが今朝方にが今夜には戻ると言っていたからだ。それを出迎えようと本部を出た矢先。違うと頭で否定しながらも走る足は彼女に何かがあったのだ、と肯定していた。現場に着いてみれば人だかり。 聞こえてくるのは調査兵という言葉。悪い予感はこういう時に限って当たるもので。野次馬を押しのけ輪の中心に出てみれば体のいたる所から血を流しぐったりと横たわる小柄の兵士。

それは見紛う事なきだった。その先の記憶は曖昧だ。恐らく本部に連絡を、そんな事を口走っていたかもしれない。そしてリヴァイはを抱き上げ走ったのだろう。頭を動かしてはならないと意識していたのは覚えているのだが。


が帰ってくるって聞いて居ても立ってもいられなかったんだろ? 君は本当にが大好きだね。今回ばかりはそれに免じて冷かしはやめておくよ」


その言葉自体冷やかしだとは思うも、これはハンジなりの気遣いなのだろう。リヴァイは余計なお世話だと悪態吐きながらも依然として慌ただしい扉の向こう側に思い馳せては舌を鳴らした。


「――状況は?」


自然と沈黙が落ちる廊下に現れたのはエルヴィンだ。彼は知らせをいの一番に聞いた筈だ。しかし赴いたのは半刻経った今。 決して心配していなかったわけではない。直ぐに駆けつけても面会はおろか治療中であり徒に時間を浪費するだけだと考え至っただけで。

それに、廊下で待っていたと知れば「そんな暇があるなら仕事をしていてください」と叱咤が飛んでくるに違いない。あの冷酷な瞳には逆らえるはずもなく。


「まだ治療中だけどそろそろ終わると思うよ。うちの看護兵は優秀だからね」

「そうだな。ふたりともご苦労だった、後は私に任せて持ち場に戻れ」

「えぇ!? 治療が終わるまではここに居たいんだけど――」

「命令だ」


有無も言わさぬ物言いにハンジは瞠目する。いきなり現れたかと思えば何を。こうなれば反論してやれと咄嗟にリヴァイに目を向けるも彼は視線を下げたまま微動だにしない。 梃子でも動かない、というよりもエルヴィンの命令が届いて居ないのでは。そう思わざるを得ない態度だ。

何はともあれ己の出る幕では無いだろう。ハンジは嘆息を漏らすと立ち上がった。一気に何人も見舞ってはに負担が掛かる。暫くしてから顔を出そう、トランクを椅子に置きその場を後にした。

ハンジが廊下の角を曲がったのち、徐ろにリヴァイが口を開く。


「10分だ。それ以上は待たねぇぞ」


エルヴィンは彼にも命じた筈だが致し方あるまい。ことに関してのリヴァイは頑固だ、何を言っても聞かないのだろうと思わず口角を上げた。 なけなしの理性を抑え『一番手』を譲る忍耐力。その真意は規律に重きを置く彼だからこそのもの。


「……いいだろう。それまでには終わらせるさ」


その時、医務室の扉が開かれ治療にあたっていた看護兵が、滲む汗を拭いながらふたりの前に姿を見せた。 団長と兵士長がこの場に居ることに驚く様子はない。


「安静にしていれば問題ないかと。さすがは分隊長、咄嗟に急所を外して受け身をとったようで……傷口の方も派手ではありますが塞がってしまえば後は大事をとって経過を見るだけで済みそうです」

「そうか、ご苦労だった。意識の方はどうかな」

「もう目を覚ましておられますよ。特に障害もみられません」

「そうか、それは良かった」

「何事もなければ全治3週間といったところですのでその間の任務は控えてください。後遺症が無いとは断言できません」


本当にしぶとい奴だ、ふたりは息を吐くと共に言外でぼやく。何はともあれ一安心というわけで。 エルヴィンは血を洗い流しに行く兵士を見送り医務室へ入る。未だ廊下の壁にもたれ掛かるリヴァイは相変わらず指で拍を刻んでいた。

室内に足を踏み入れれば消毒液の香りが鼻につく。そして、同時に主張する鉄臭さ。どれほどの出血量だったかを物語るそれはつい先ほど感じた安心を揺るがすには十分で。

カーテンを分けベットを見遣れば目が合う。まるで待っていた言わんばかりに座るはバツが悪い様子で視線を逸らすと口を開いた。


「申し訳ございませんでした」


どうやらエルヴィンが赴いた理由を察している。頭を打ったわりには言語も問題なく脳震盪の心配もなさそうで。それならばと彼は手心を加える事なく彼女のお望み通り目的を果たすのだ。


「急ぐ気持ちも分かるが、もし今回重要な機密情報を所有していたならばどうなるか……分かるね」

「はい。然るべき処罰を受けて当然の失態です」


肯定と共にエルヴィンに向き直る彼女の瞳はどこまでも真摯だ。普段の減らず口など微塵も無く、どれほど深刻な問題であるのか理解しているという事。

という人間は己の立場を弁えている。いくら慣れているとはいえ託された任務に責任を持ち、それを重んじ真面目に取り組む姿勢。だからそこエルヴィンは彼女を信頼し機密の全てを託すのだ。 この裏方仕事を。決して公に出来ないものから難しく危険な任務を。彼女は今までその期待を裏切ったことはない。だからと言って今回のような失態に目を瞑ることはできる筈もなく。

一歩間違えれば彼女の言う『然るべき処罰』を与えなくてはならない。たとえ機密が漏れるという最悪の事態にならずに済んだとしても、頭にだけ叩き込まれた情報を聞けずに終わる事もないにしても処罰は兎も角それ相応の叱責は必要なのだ。


「私はね、。情報もそうだが何より君の身を案じているんだ。だから焦燥に駆られていたとしても警戒を怠ってはいけない。これが任務中でなくて良かった」


無論、機密に関してだけではなく根底にあるのは『自身の無事』である。これは紛うことなき彼の本心だった。


「……すみませんでした。こんな失態は二度と犯しません。なのでどうか――」


エルヴィンはが懸念する先にあるものを知っている。いくら慮ろうとも、甘さを垣間見せようとも彼女が安堵することはない。 ――何故なら彼女は何よりも彼から信頼を失うことを恐れているのだ。入隊当初から恩を感じている彼女ならではのそれ。

義理堅いというかなんというべきか。任務を与えるようになった当初ならいざ知らず、年を重ねた今になってお役御免になるわけがないというのに。


「君ほどの人材を燻らす事はしないさ。安心しなさい」

「――っありがとうございます」


まったく頼もしい事この上ない。微笑みを浮かべエルヴィンは労わりながらその小さな頭に手を添え撫ぜた。漸く安堵するがゆえにこわばる表情を緩めさせた顔に、己の表情を微笑みから苦笑に変えながら。 しかしその瞬間。


「うぐっ――」

「我慢はするな、


咄嗟に口を抑え背中を丸めた。エルヴィンは素早くベットテーブルに用意されていた桶を口元に差し出すと背中を摩った。 やはり頭部を打ったことによる後遺症は存在するようだ。看護兵もそれを考慮して桶を用意していたに違いない。

嘔吐きながらひとしきり吐き出し落ち着けば呼吸を荒らげるのをそのままに体を揺らす。眩暈も酷いのだろう、顔面を蒼白に染め上げ普段はピクリとも動かぬ眉はこの上ない深さの皺を刻んでいた。


「看護兵を呼ぼう、少し休みなさい」

「いえ……まだ寝るわけには、いきません」


流石、どんなに不調でもその並外れた精神力は健在らしい。恐らくこの場に後輩が非難を浴びせに来ようがいつもの冷酷な物言いを難なく返すかもしれない。 何がそんなに彼女を奮い立たせるのか。言わずもがな、である。


「……こうなるなら日にちをずらせば良かったな」

「ずらせるのなら、端からそうしていたっでしょうに……それにこ、れは自業自、得です」

「君のそのストイックさを見ていると胸が痛むよ」

「心にも無いことオロロロロロ」

「ははは、つい先ほど『君の身を案じている』と言った筈だが……ともあれ出るのは減らず口だけではなさそうだ」


冗談まがいの発言も歪めた眉の下から覗き見える揺るがぬ瞳も普段とそう大差ない。自然と肩が下がる事に己こそ真に安堵していなかったのか、とエルヴィンは今一度苦笑をこぼした。 未だ小刻みに嘔吐くを視界から外しながら、摩る手のひらで生を確かめ――鼓動を重ねる。


「……そろそろ来る頃か」


まだ摩って居たい気持ちもあるけれど、躊躇なく開かれたカーテンの音を合図に手を離した。振り返れば。


「エルヴィン、時間だ」

「また2分残ってるが……仕方ない、俺も譲るとしよう」


態度には出さないまでも内心では嘔吐くが心配だったのだろう、そんなリヴァイにエルヴィンは降参と言うように肩を竦ませると席を立った。 最後にお大事に、と言葉を残して医務室を出れば扉を閉める。サプライズは完治祝いにしよう、そう心に決め今一度微笑むとその場を後にした。

一方、エルヴィンが去った医務室では。


「もう吐き気は無いか」

「……大丈夫。全部出た」


差し出されたタオルを受け取り口元を拭う。その間にリヴァイが桶をベットテーブルに戻す。汚いだのなんだの言いそうだがその言葉は終ぞ発せられる事は無かったという。 お見苦しいところを、とはエルヴィンに言うべき事か。はタオルで隠された口角を上げ苦笑を漏らす。


「運んでくれたのは貴方だと聞いた。ありがとう」

「たまたま通りがかっただけだ、礼には及ばん」


ついと逸らされた視線の先には何があるのだろうか。なぞと冗談は置いといて、何も照れるほどの事でもないだろうにと思う。それに。


「これみよがしに血糊つけたままな癖してよく言う……」

「別に恩着せがましく見せつけてるわけじゃねぇ……着替える時間が無かっただけだ」


素直ではない彼には人知れず微笑むのだ。赤く染まる制服を見ればどんなに悲惨な状態だったのか。そしてどれだけ必死だったのか分からない筈はなく。 もしかしたら通りがかったのも照れ隠しによる嘘かもしれない。残念ながら真相は教えてくれないのだろう、再び照れ隠しを重ねる彼には意地が悪いと自覚しながら問いかけるのだ。


「そう。それは兎も角、私が運び込まれてからどのくらい経ったの」

「一時間くらいか――」

「…………」

「……チッ」


これ以上は何も言うまい。リヴァイともあろう人間が壁外でもないのに血を付けたまま一時間も放置するだろうか、とは。いや、怪我の度合いの割には1時間は短いのかもしれない。なんて。 小難しい顔をしながら目を逸らしている彼にむず痒さを覚え。しかし彼は見た目によらず激情家であるからしてこの言動も道理なのだと納得する。


「我ながらに壁外でもない場所で怪我をするとは……鍛錬が足りない証拠かもしれない」

「……この干物女が」

「そう言えばお馬さんはどうなったの。派手に衝突したと思うのだけれど」

「少しはてめぇの心配したらどうなんだ……お前が派手に吹っ飛んだだけで馬は無事だ、安心しろ」

「そう。ならいい」

「それはともかく、何故ガラにもなく注意力が散漫になるほど急いでいた?」

「……えと……それは……」


問いかけに言い淀むはリヴァイの足元に置かれた己のトランクを取ってもらい中身を確認する。予想通り無秩序に荒れ果てたお出かけ用品たちにゲンナリするも幸いお目当ての物は無事のようで。 は『それ』を手に取ると徐ろに腕を彼の前に突き出し、今回の帰路を急いで疾駆したその理由を不本意ながらそれとなく匂わした。そして間に合ったと胸を撫で下ろしながら言うのだ。


「お誕生日おめでとう、リヴァイ」


祝いの言葉を。今までの感謝も籠めて心の底から湧き上がる衝動を隠すことなく。


「――馬鹿が」


いつか見た希少価値の高い微笑みを確と目に焼き付けリヴァイは腕を伸ばす。小箱を受け取り次いでを抱き寄せると全身で喜びを伝えた。これが彼の、精一杯の意思表示。


プレゼントを渡す為だけに急ぎ、不本意ではあるが流血事故を起こしてしまった。それでも尚、目眩と痛みに耐えながら休むことなくこの瞬間を迎えたかったのだろう。 何よりもリヴァイの喜ぶ顔が見たかったと。だいすきな仲良しにありったけの思いを贈る為に。



窓の外では雪が本格的に降り始めこのままいけば積もるだろうと予想された。ならば今夜は更に冷える。の聖域に場所を移せば暖は任せろと言わんばかりに布団に潜り込むリヴァイが居たとか、なんとか。 ともあれ慌ただしくも衝撃的な日ではあったが、今はただこの幸福感を胸に眠ろう。ふたりは身を寄せ合い静かに瞼を閉じるのであった。

がリヴァイに贈ったスカーフピンがエルヴィンの用意していた物と同一のデザインだったと知るのは3週間後のお話。





END.












おまけ

――エルヴィンとの会話。

「ははは。また被ってしまったようだね。どうやら私と君のセンスは似ているらしい」
「物凄く嫌悪を感じます」
「同族嫌悪かな」
「やめてください虫唾が走る貴方と私が同族なわけがないでしょうに」
「……いつもの辛辣な冗談だと受け取っておくよ」
「ポジティブで羨ましいです」
……?」
「…………」

――リヴァイとの会話。

「こりゃアレだな、ペアルッ――」
「態々口に出さなくていい黙って」
「この歳になって嬉しかねぇが……悪くない」
「……いい歳こいたオッサンが何を」
「かもな。まぁ、『お揃い』なんぞ同じ制服着てりゃさして珍しくもない。兵士の支給品は殆ど同じ、一々喜んでちゃ限がねぇ」
「そう……」
「だが飽くまでもこれはプライベートなもんだ。『だいすきな仲良し』もここまで来れば現実味が増すな」
「……満足いくものじゃなくて申し訳ない」
「言っただろうが。悪くないと」
「そう。だいすきな仲良しはより強固になった。素直に喜んで」
「…………」

――ハンジとの会話。

……相当悩んだ挙句に態々任務の合間を縫って王都まで買いに行ったのに残念だったね。まさかエルヴィンも同じ所で同じ物を買ってたなんて」
「慰めは結構」
「まぁ今までのエルヴィンからの報酬にあのお店のものがあったんだからこうなる確率は高かったわけだ」
「それは言わない約束」
「……まさか君にも装飾品を嗜む感慨があったなんてね」
「決してエルヴィン団長に影響されたわけじゃない。私の好みに合っただけ」
「君は我が道を行くタイプだもんね。……あぁ、そっか」
「……なに」
「いいや? 何でも無いよ」
「…………」

――ハンジの確信。

「悩みに悩んだ末に選んだのは『自分が欲しい物』なんてね。エルヴィンに見透かされていたようで複雑なんだろうなぁ……」
「嬉しさ半分、てところですか?」
「嬉しいけどリヴァイとお揃い。とっても、とーっても使いづらい。周りに悟られでもしたら言い訳できないし、何より恥ずかしいからね」
「恋人同士じゃないから余計に恥ずかしい、そういう事ですね。10代の女子同士ならいざ知らず……」
「でも本当の理由は別のところにある。私はそう確信した」
「一体どこに……さんのプレゼント選びの方法は至ってスタンダードだと思いますが」
「そこが問題なんだ。『自分が欲しい物をあげる』というのは言わば『最終手段』……これ即ち」
「『物凄く悩んだ』と……」
「それをリヴァイに知られでもしたら――」
「――お揃いよりも恥ずかしい事に……!」

「まぁ一番複雑なのはリヴァイだろうね。悪くないけど恋人でもなく『だいすきな仲良し』という関係が目に見える物として与えられたんだから」
さんは鈍感ですし。物凄く悩んだと知られていないことも相まって、喜んでいただけてホッとしているのが想像に難くありません」
「さぁ……それはどうかな。ホッとする理由はそれだけだと良いね」
「……?」





ATOGAKI

どうしてこんな時期に誕生日の話を書いたのだろうか。ちなみに書いたのは1月19日です。これは酷い。 おまけはupする直前です。

ペトラとかと仲良くなる前くらいの話、のつもりだったり。記憶曖昧。