She never looks back
―光射す塗炭の苦しみ―
石畳の街道に積もる溶けかけの雪を踏みしめるように、なぞとそんな生易しくない状態の道をただ只管滑らぬよう踏ん張りながら歩み進める足に意識を集中させた。
油断すれば街外れとはいえ人々が行き交う大衆の面前で大恥を掻くハメになってしまう。それだけは避けねば、と意気込み尽きかけた精神を振り絞り。
雨具のフードを打つ耳障りな雨音は馴染みもはや何も感じなくなってきた今、私は身に染みる寒さに身震いをした。
「寒っ……」
昨日の晩から夕方にかけて降り積もった雪。天候はそのまま雨へと姿を変えては中途半端に溶かし、路面を悪状況に仕上げている。お陰で最近新調したばかりの革靴もその中もびしょ濡れだ。嘆かわしい。
先程まで感覚が失われていた足は次第に熱を持ち名状し難い不快感を齎している。どうせなら他の部分が火照れば良いものを湿気を含む風と気温は熱を奪うばかりだ。動きにくいという理由で厚着して来なかった自分を呪う他ない。
立体機動装置を収納したケースは疲れた体には些か重く、腕に負荷をかけるが捨て置くわけにもいかず。装着した方がまだマシなのだが街中ゆえに緊急事態でもない今それは許されない。
いくら他の団員とは違い装置の使用に自由が効く立場であろうとも、無闇矢鱈に扱えばお咎めは避けられないと言うわけで。それに私服で雨具を羽織り隠したとしてもガチャガチャと金属音を鳴らして歩けば不審者この上ない。
素直に諦めかじかむ指を痛めつける重みに耐えながら持つ他ないのである。
「まさか馬車代さえも無いとは……不覚なり」
いつもは馬か馬車に乗って移動する私であるが今日に限って財布の中身からは閑古鳥が鳴いている現状。何を隠そうただ十分にお金を入れ忘れただけであるからしてすれ違う辻馬車を指をくわえて見つめる事しかできなんだ。
少しは残るだろうとタカを括っていた筈の手渡された経費も底を尽き、私の強みであるツテもコネも見当たらない場所で資金を調達出来るわけもなく。
こうなるならお馬さんを連れてくれば良かった、と天を仰いだものだ。寒いからという理由で横着した自分を再び呪う他ない。
まぁ今更悔やんでも仕方ないね。ケースの取っ手を肩ごと力んでは勢いをつけ持ち直し、その反動で滴り落ちる雨水をフード越しに見遣っては煩わしいさを振り払うように帰路を急いだ。
と、その時。前方のショーウィンドウから漏れ出る灯りが視界に入ってきた。然程大きくはない商店街の入口に位置する店舗。角を曲がれば煌々と輝く大通りが見えるその一角。
店内には店員さんが行き来し、灯りを横切るそれは人影となってチラつき関心を煽る。動くものに反応してしまう動物か何かか、私は。そう呆れながら通り過ぎようと思ったのだが。
――ふと、下を見た。足元には届きそうで届かない間合の先に引かれる境界線。
「――っ」
咄嗟に足をずらす。ズルリと引きずるように、光が届かぬ場所へ。自分は一体何をしているのか、と考える間もなく光と影のコントラストを凝視しては思考が支配され。
灯りは石畳を切り取り浮かび上がらせ影との境界を明確にしていた。世界が違うのだと、決して相いれぬ存在なのだと主張するかの如く。
まるで――そう、まるで私を責め立てるように、戒めるように。
思わず目を擦る。次いで恐る恐る瞼を開けば何の変哲もない街路が視界一面に広がっていた。路面を濡らす雨が水溜りに落ちては跳ね、光の粒となって街路灯の明かりを反射する。
店内から漏れ出る灯りは水面が映写し波紋に揺れ、先ほどの光景は綺麗さっぱり消え失せていて。
幻だったのだろうか。それにしては妙にリアルだった気がする。そう思わせる程に明暗の差がはきと見て取れたのだ。
「なんというか……世にも奇妙な体験だった……」
疲れている所為で見てしまったのだろう、まるで何かを示唆するような幻覚を。――否、私を嘲笑い決して忘れるなと見せつける、現実を。はたと瞠目する。
『、私は君の過去を知ったからこそ”駒”として利用する。君を綺麗だとは言わない。だが、汚いとも言わないよ』
脳裏を過ぎる言葉。入団して間もない頃、エルヴィン団長から告げられたそれは私の存在を認め安堵を齎すものだった。
人の死を意に介せず手を染め人徳も、人間性さえも欠いていた当時の私を肯定してくれたその言葉に救われたというもの。
その筈なのにどうして今、思い出すのだろうか。
無意識にも立ち止まっていた歩みを再開させる。水音を鳴らし跳ねる水滴に構うことなく足早に。灯りが届かぬ場所へ、人の居ぬ場所へ。
この街を抜ければ農道がある筈だ。少しでも良い、ひとりきりになりたかった。
「――っと、テメェどこ見て歩いてんだ! 大層なもんぶつけやがって喧嘩売ってんのかあぁ!?」
しかし、足元を見ていたばかりにケースがすれ違った人に当たってしまい物凄い剣幕で怒鳴られてしまった。最悪だ。ぶつかった衝撃で握力は耐え切れず取っ手を手放し。それ即ち落としてしまったというわけで。
重さ10kgを優に超えるそれは鈍い音を響かせ石畳に横転する。あぁ、これは痛い。本当に申し訳ない。彼が受けた痛みは相当なものだろうと予想する。
「す、すみません態とじゃ、無いん、です……」
「ったりめぇだ!! 気をつけろ馬鹿野郎!!」
「すみません、でした……」
痛む足を抱え蹲る体を見下ろしては彼の頭部よりも低い位置まで頭を下げた。こういう時はアレだ、誠心誠意謝罪するに限る。流石にお得意の土下座はしないもこの誠意が伝われば良いのである。
しかし彼は満足出来なかった様で立ち上がると私を突き飛ばした。恐らく唐突にも激しい痛みを受けた為に怒り心頭に発しているのだろう、なんて冷静に分析している場合ではない。
溶ける様子の無い雪の塊に足を取られ転倒する私。受身を取るも疲労した体は思うように動かずモロに打撃を受ける事となる。痛い。これが俗に言う因果応報か。そうか。
次いで繰り出される足。そんなご無体な。蹴飛ばす事ないじゃないか。いや、前を見ていなかった私が悪いんだけれども。思わず反射的に避けた。
「生意気なガキめ!!」
「いやいやいや、暴力はいけない。治療費払いますからそれで手打ちにしましょう、ね!」
「チッ! 早く出すもん出せ!!」
「アイタタ……最初から平和的に行きましょうよまったく………………あ」
譲歩して頂けたのは有難い。しかし、私は財布を取り出してから気づくのだ。
「……そう言えば”すかんぴん”でした。てへぺろ」
「ナメてんのかテメェは!?」
いやはや私のうっかりさん。お金があったら辻馬車に乗ってるばかりかこの人とぶつかることも痛い思いをする事も無かったでしょうが。
頭を小突く私に更なる憤りを感じた彼はぶん殴ろうと拳を掲げる。そりゃそうなりますよね。本当に申し訳ない。
突き出される腕、避ける私。いつぞやのどっかの誰かさんよろしく足掛けでもしようか、なんて思いつくも時と場合を考えろと叱咤して衝動を抑えた。
と言うか、この場合は一発ぐらい素直に殴られれば彼もスッキリして場が丸く収まるのでは。いやしかしど素人の鈍速な攻撃は私に回避する猶予を与えてしまうというもの。
つい、うっかり。それはもう、お金がないのにお金を払うと宣ってしまったが如く。躱してしまうのは致し方ないことで。
と、そんな阿呆みたいなやり取りをしている私たちだったのだが。
「テメェ……こうなったらその大層なケースを寄越しやがれ! 質も上等なもんだ、売りさばいてやる!!」
男は目敏くも放置していたケースを見遣り手に取った。予想以上の重さに暫しよろけるもしっかりと抱え始める始末。
やばい。それを持って行かれたら立体機動装置を売りさばかれるだけではなく一緒に入れておいた大事な書類も見られてしまう。そうなれば最悪、それ相応の対応をしなくてはならなくなるのだ。
こんな街中で、剰え守るべき人類側である一般人に。いや、私が守りたい人間ではないのだが。それはそうとどっかに憲兵の人は居ないかな。居ないだろうな。居たら止めに入ってくる筈だもの。おそらくきっとたぶん。
「まあまあ、それだけは勘弁してください。大事な物なのです。それを持って行かれてはめちゃくちゃ困ります。無論、貴方も」
「はぁ!? 何言ってんだテメェは!!」
「詳しくは守秘義務があるので言えませんが……まぁ、アレです。普通の表立った換金屋さんに持ち込めば捕まりますよ、貴方」
「もしかして……テメェは『裏の人間』か?」
裏仕事はやってるがそれ以前に私は兵士であるからしてなんと言えば良いのやら。身分を明かしても良いが、もし本部に治療費を請求されでもしたら色々と体裁が悪い上に恥ずかしい事になるだろう。
いや、身分を明かすのは駄目だ。何故なら立体機動装置を持って歩いている兵士が居ると知られてしまえば周囲からの追及は免れまい。
何故に装置を持って歩いていたのか。一体何の為に。使用申請も出さず非公式で。素直にエルヴィン団長から仰せつかった裏方仕事をしていました! なぞと言えるわけがない。
それに転んだ拍子にバッチリ顔を見られているからして故意的に公に素顔を晒さない立場上不都合が生じるわけで。ただの一般人、されど一般人。どこから情報が漏れるか分かったものでは無いのだから用心に越したことはない。
ならば。
「いやぁ……それの中身は”下着”がぎっしり詰まっているのですよ。こうみても私、子供ではなくしがない商人なんです。ケースは商会の備品ですし大層な質なのはほら、”下着”ですから」
「…………」
そっ、と丁重に置かれるケース。自分は下着入りのそれを抱きかかえていたというのか、と言うように。良かった。いつものような甚だ馬鹿げた冗談混じりの嘘に騙されてくれるなんて。
私はさも雨に濡れるのが嫌なのだと言うようにフードを目深にかぶり直しながら置かれたケースを手に取りその場を去った。追いかけてこないところを見るとうまく切り抜けられた様だ。
時間を食ったが早く街を抜けて本部に帰らなくては。この一件で先ほどの憂いはいつの間にか跡形も残ってはいないのだからたまにはトラブルも悪くはない。なんて。
まぁ、そうすんなり逃がしてはくれないのが何度も絶望したこの世の不条理というもので。
「あんな見え透いた嘘をつくぐらいだから本当に上等なものなんでしょ? そのケースの中身はさ」
街を抜けた薄暗い農道で3人の男に囲まれてしまった。どうやら先ほどのやり取りを見られていたらしい、確信する口ぶりは一筋縄ではいかせてくれない様だ。
「なんですか、そんなに下着が欲しいのです? ……変態はオヤジとメガネだけで十分なのですが」
「素直に渡さないと痛い目見るよ」
手元にナイフをチラつかせては親切にも警告をしてくれる男その1。それ即ち脅迫されているというわけで。ひとりだったらまだしも3人か。何だか喧嘩慣れしているみたいだし対人格闘が得意ではない私には些か不利な状況である。
どうしてこうもトラブルというものは連鎖反応よろしく舞い込んでくるのだろうか。全ては自分が撒いた種であるからしてまた呪わなくてはならないではないか。そろそろ自分に呪い殺されそうです。
「平和的解決……とは行きませんか」
「そうして欲しいならケースを渡せば良いさ」
「出来ることならやっています」
「じゃあしょうがないね、力ずくで奪うまでさ」
同時に突進してくる3人。予想通り喧嘩慣れしている動きは私を手こずらせるには申し分ない。あまり言いたくはないけれど――これ即ちピンチって事だよ!
手馴れた連携、泥濘む地面、足が縺れる煩わしさ。それに加えて枷となる重たいケースが蓄積された疲労をこれでもかというほど引き出してくる。ちくしょう。誰かこんなにも不憫な私に辻馬車代を恵んでください、後生ですから。
そしてとうとう私は地面にひれ伏すこととなる。見通しが悪い視界その死角から繰り出された男その2の足払いは敵ながらあっぱれという他ない。私もまだまだである。壁外なら命取りになるというのに。このクソ野郎。
「うっわ、結構重たいねこれ。さて中身は何かな」
地面に置き引掛錠前に手を伸ばす男その1。残念ながら普段の執務室と違って施錠されているので開けることは叶わず、私は鍵の受け渡しを要求された。
断ればナイフで壊そうとするものだから咄嗟にケースを蹴って阻止する。やめてください閉まらなくなったら持ち帰りが不便になってしまいます。
石畳で傷つき泥にまみれ終いには持ち主に蹴られるケースはそこはかとなく物悲しさを醸し出していた。ごめんよ、後で綺麗にしてあげるから今は我慢しておくれ。
私のなんとしてでも諦めぬといった行動に男3人は堪忍袋の緒が切れた様で遠慮なしにナイフを振りかぶってくる。この際立体機動装置から剣でも取り出してやろうかちくしょう。
とは思うものの出来ないばかりかやるつもりも毛頭ない私は裾からお馴染みのナイフを取り出し斬撃をいなす。鳴り響いた金属音は雨音に乗じて無効化を教えてくれた。つまりは男の手からナイフが吹っ飛んだという事である。
伊達に何年も扱って無いですよ。ただの喧嘩しかしてない野郎に遅れを取るなぞとそんな。
「その手捌きは、やっぱり堅気の人間じゃないみたいだね」
「しがない料理人でございます」
「包丁とナイフは違うよ」
「仰る通りでございます」
ぐうの音も出ない。包丁も勿論扱い慣れているが『扱い』の種類が違う。流石に料理だけしかしてこなかったのであればナイフを弾くなどそんな芸当出来なかっただろう。相手は物言わぬ食材ではないのだから。
これはもうあれか。この3人を『敵』とみなすべきなのか。襲われているのだから十分当てはまっているわけだが、いやしかし一般人であるからして云々。
ともあれいくら私のナイフ捌きが驚異になりうるからと言って手を引いてくれる雰囲気ではない。むしろケースを抱えてトンズラされてしまいそうだ。あぁ、しくった。その手を使わざるを得ない状況にしたのは私自身じゃないか。
何度呪えば良いのだろうね。兎も角トンズラされる事だけは阻止しなくてはならない、ということで瞬時にケースに飛びつき身を呈して守るよろしく抱き込み距離を取った。
両手で持っているにも関わらずその重みはなけなしの体力を容赦なく削っていく。正直立っているのも辛い。思わず膝をついた。
「必死だね。それほど大切な物ってことかな。奪い甲斐があるってもんさ」
万全な状態ならこんなに苦戦させられることも無かっただろうに、何故に体力を珍しくも使った任務帰りの今なのだろうか。現場で広範囲を走り回り、重い荷を携え長距離を歩き寒さや先ほどのやり取りで体力をごっそり削り。
あぁ、全く以て解せぬ。もしこの場をやり過ごそうとも本部まで何十キロあると思っているんだ。こうなれば街に引き返して宿でも取る他ない。いや、ちょっと待て私。先立つものが無いからこそこんな状況に陥っているのだと何度思い知らされれば分かる。
そうだ、元はといえばそのお金を忘れた私が全て悪いのだ。諸悪の根源だ。不運の始まりだ。もしかして本部から旅立った数日前の私を呪えば一回で済むということでは。この横着者が。
「見た目は大層なナリしていますが中身はそんな大したものではありませんよ。そろそろ手を引いていただきたい」
「それは中身を確認してみないと分からないじゃないか。もう面倒だから開けて見せてよ。物によっては手を引いてあげる」
それができたら、である。出来ないからこそこうして足掻いているわけで。お願いだから引き下がって欲しいものだ。何故なら。
「見られてしまえば貴方がたを――生かして帰すわけにはいかなくなります」
彼の駒として使役される事が決まると同時に叩き込まれた『教え』。今の私と同じ立場であった先輩から教育されたそれを忘れたことなど一度もない。
最初こそ手間取りその教え通りに実行してきた私だが、経験を積むにつれ上手く立ちまわれるようになった。死体を見るのは壁外だけで、良いのだから。全く以て良くない話だけれども。
だからこそ、こんな状況下であろうと最後の手段として仕舞っておいた。しかしそれも無駄な足掻きよろしく今の私には余裕が無いわけで。
目を瞑る。息を吐く。瞼を持ち上げ意を決す。眼前には3人の『敵』。大丈夫、顔もケースの中身も見られてはいないのだから足止めだけで十分だ。
「手を引いていただけない様ですので致し方ありません。少し痛い思いをさせてしまいますが我慢してください。生憎手心を加えられる程の余裕が今の私にはありませんのであしからず」
「なんか雰囲気変わったけど、漸く本気になったって事かな?」
「本気、というより……正体を現した、とでも言いますか。よくあるじゃないですか、私の皮はあと3枚ありますみたいな。今が最後の1枚なのではないでしょうか」
「……面白くないよ、それ。よくわかんないしさ」
「疲れているのですよ私は。さっさと終わらせて帰りたいのです。手こずらせやがってからに……まぁ、うっかり殺しはしませんのでご安心ください」
よっこらせ、と立ち上がりナイフを逆手に持ち直しては力を篭める。心許無い握力は震えを生みそれを悟られぬよう空いた手を添えた。正直この持ち方でないと軌道を安定させられないのだ、情けない事に。
足もガタがきている。何故に壁内だというのにこんな疲労困憊に陥っているのだろうか。甚だおかしな現状に笑う他ない。あぁ本当に反吐が出る。フードが飛ばされないよう再び目深に引き下ろし臨戦態勢に入った。
何やら心底愉快だと言わんばかりに襲いかかってくる3人。こんなか弱い乙女を甚振ろうとするなぞ言語道断、許すまじ。薙ぐ斬撃を躱し身を屈め太ももを切りつけいっちょ上がりである。
次いで間を空けず繰り出される攻撃。屈み低位置に来た私の顔面めがけて迫り来る足はどっかの誰かさん程の速度も威力も無く、串刺しよろしく刺突する猶予を与えた。
自ら足に飛び込む様に踏ん張ってはその足蹴を止めることに成功。突き刺したナイフは骨で滑り然程鍛えられていない筋肉を引き裂くも柄に引っかかり押し留められたのだ。
そして残るはあとひとり。最後尾に居た男その1は私の疲労を見破っていたらしく、ふらついた隙を突いてスライディング足払い。泥濘る地面はよく滑った。そしてべしゃーっと私の体をも滑らかに運んだ。
もはや前も後ろも全身泥だらけである。汚ぇな、と絶対言われるに違いない見た目に仕上がった私はまるで鮮度を保つために泥を塗りたくられた食材だ。疲れ果てた今、その鮮度があるかはわからないが。
「しぶとい人だったけどあんな啖呵切った癖に惨めになったものだね」
「くそー完全体なら貴方なんかに負けないのにー覚えてろよー」
手に持つナイフを放り投げるも男その1に掠りもせず泥水に浸かる。ごめんよ愛しの形見。後でちゃんと磨いて研いであげるから今暫く我慢しておくれ。
通り過ぎていったそれを横目で見遣り男その1は嘲笑をひとつ。今に見てろよ。私は反撃の一矢を報いれる潮時を見極め。
「負け犬の遠吠え?さっきから棒読みだし変な人。じゃ、ケースは貰っていくよ」
「それだけはマジでご勘弁をーご慈悲をーちょっと待ってください、てばよっ」
起き上がり背中の裾を掴んでは仰け反らせ、追い討ちで膝裏を蹴った。タチの悪い膝カックンである。力を使わず転ばすには結構効果があると覚えておくといい。油断させた後ではないとあまり効力を発揮しないが。
傍らに仰向けで転倒した男その1に、私は雨を遮るように彼の顔の上に雨具を広げた。何も親切心で雨避けをしてあげているわけではない。
腕で支える雨具の下では手首を折りその手に銃を構えている。無論、照準は眉間に定め済みであるからして完全なる悪意しかなく。
「降伏してください。そして何も言わず何もせずお帰りください」
引き鉄に指を掛ける。脅しではないと言外に訴えながら。撃たせてくれるなと切実に。綺麗でもないこの手を、汚させてくれるなと。
「……分かったよ。どうやら本性を現した君に勝てそうにないね。またどこかで会ったらその時はよろしく」
「こんな若気の至りなんてしてないで真面目に働きなさい、クソガキ君。大人になってから後悔しますよ」
「もしかして、結構オジサンなの?」
「貴方みたいに未成年ではない、とだけ言っておきます」
オジサンという言葉に些かショックを受けつつ、仲間に肩を貸しながら去って行く背を見送った。大団円、と偏に言えない結果だったが何はともあれ無事に事なきを得たのだから良しとしようではないか。
私は気が抜けたように重い体を引きずりナイフを拾い、雨ざらしのケースに顔を伏せる。疲れた。非常に疲れた。もう体力は限界を超えている。立ち上がる気力も皆無。このまま寝てしまおうか、なんて甘ったれた事を思う。
いやはや少しくらい休んでもバチは当たるまい。ここには口うるさいどっかの誰かさんは居ないのだから。例え地べたに座るという醜態を晒していると自覚していようとも。今だけは。
意固地にも抑えていた動悸を開放する様に深呼吸。乱れた呼吸は絶えず繰り返され意識を遠ざける。暖まった体温は冷たい雨と泥濘んだ地面に奪われていった。
視界が霞む。瞼が重い。これはまずい。本当に寝てしまいそうだ。こんな寒いところで寝てしまえば死ぬぞ、私。もはや考えることも億劫になった脳で叱咤するも体は言うことを聞いてはくれなかった。
――あぁ、恐らく死ぬ時はこんな感じで、ひとり惨めなものなのだろう。
どっかの誰かさんと約束したけれど。でも、現実とはこんなものだと思う。何故なら私は誰かに看取られるという幸福を与えて貰う資格のない人間なのだから。
あの幻覚はきっとそれを示唆していたに違いない。光と影の明瞭たる境界線を。お前は此方側の人間ではないと。
「分かっ、てる……そんな事は――」
今更見せつけなくとも、最初からずっと分かっているというのになんてお節介な幻覚なのだろうか。綺麗でもない私、それでも彼は汚いと言わないでくれたこの手。
決して境界線を越える事のない足はあの頃から影の上を歩き続けている。
私の世界はどちらかと言うと影だ。影の中で生きてきた。だけど生まれてからの5年間は確かに光の中だったと思う。記憶の中の私はキラキラと光輝いていたのだ、そうに違いない。
今では想像するのも困難な世界。何故ならイカレポンチに対する憎悪とあの3年間に続いて、身分を偽り素性を隠し演技を駆使しては本心さえも捨てた今の私に、光の上を歩く事なんて許されないのだから。
『このプレゼントは私のエゴだ。私は君を失いたくはないからこそ贈るんだよ。好きに使うと良い』
先程まで握っていた愛銃の感触が私に幻聴を聞かせた。これは私の存在を認めてくれたとき次いで告げられた言葉だ。今現在、懐に仕舞われている愛銃と共に。
彼の言いたいことは分かっていた。何故ならこの言葉の意味するものが何なのか分からない程無知でもなければ純粋でもない。
私はそんなに大層な人間ではないというのになんと物好きな事か。みんなそうだ。私の周りの人間は世話を焼きたがるばかりか信頼を寄せてくれる。
私は何も返せないと言うのに、向けられた厚意を突っぱねる事も出来ない脆弱な人間だというのに。恩を仇で返すように本心を隠し続けているというのに何故――それをわかった上で光の中に引きずり込もうとするのだろうか。
分からない。いの一番にこれでもかという程信頼を置いてくれるあの人が。そして何よりあの人を信頼している私自身が。
「あの人は、眩しすぎる」
みんなそうなのだ。どんなに手を汚そうとも非情な決断を下そうとも彼らは――あの人は、目を眩ませる程に煌めいている。だから矛盾を生み私を盲目にさせるばかりかあのまばゆい光で目を焼き焦がし。
そして見えるは闇。皮肉にも光に焼かれた瞳は闇しか映し出せない。それで良いと思いながらも一度見てしまった光に縋りつこうともがいては、何度も目を擦り手を伸ばしてしまう自分に反吐が出た。
なんてみっともない事か。無様な事か。こんな矛盾を抱く私を知られたくはない。私のこの弱さを、光を拒む惨めな姿を。
だからこそ私は真理への砦を突破されまいと必死に守り続けるのだ。口に出すことさえ躊躇わせるこの感情も。今はまだ伝える事も出来ず飲み下しては誤魔化し、ひた隠し。
言葉にしてしまえば戻れなくなる気がしてその感情を必死に砦の中へ押し込める。今まで幾度となく抱いてきたというのにあの人だけには伝えてはならないと逃げ続ける。好意を甘んじりながら卑怯にも――
「意気地なし」
――背を震わせながら。
あの約束を守れる自信もない癖に――本心だったけれど。受け止める自信もない癖に――望んでいるけれど。私のために自制してくれているというのに、言わせてしまったその言葉を復唱しては自分自信に責め立てた。
やはり私の世界は影だ。決して光とは相いれない世界。それに浸かりすぎたのだろう、もう二度と光の上へは踏み入れられる気がしない。望みもしない。
私はそんな今が心地良いのだ。ここが私の居場所なのだと安堵している。だから光を避け境界線を曖昧にされることを嫌がる。雨や街路の水たまりの様に無差別に光を映写するそれが不安を齎すのだ。
あの幻覚の様にはきと線引きを突きつけられた方がよっぽどマシであるからして。優しさに満ち満ちた彼らの光から、あの人から――逃げ続ける。
――もう考えるのはよそう。よくこんな長ったらしい事について思考が動いてくれたなと感心すらする。お願いだから静かに眠らせて欲しいものであるからして、伏せた顔から滴る雨の煩わしさを拭うように腕に擦りつけた。
残念ながら疲労の取れない体は依然として起こせそうにない。だからこんな後暗い事ばかり考えてしまうのだ。そして精神的にも疲弊し肉体で疲労を感じるという堂々巡りの完成だ。これではいつまで経っても治癒できまい。
もうやだ。ベッドで寝たい。お世辞にも寝心地が良いとは言えない慣れ親しんだ聖域のそこで。いつものように――どっかの誰かさんの腕の中で、安堵を感じながら。
ガス欠で宙に放り投げられた時に受け止めてくれたそれ。優しくも強かに力を篭めてくれたそれ。生を感じさせてくれるその腕の中で、願わくばこの命尽きるまで。なんて思考が脳裏を過ぎる時、我に返った。
矛盾する心にほとほと嫌気が差す。いつもそうだ。甘ったれるな。このばかたれ。自分勝手になるのもいい加減にしろ。こんな事を言ってしまえば優しいあの人がどうするかなぞ、分かりきっている癖に。
最低だ。こんな事を考えてしまうなんて、私の弱さはいくら時を重ねようとも自分を叱咤しようとも克服することは叶わないというのか。悔しい。強く、ありたい。
思い浮かべた光の眩しさから逃げる様に目を開ける――ほら、また逃げた。眼前には微かに見える腕とケースの表面。街の街路灯に薄らと照らされた周囲では相変わらず雨が灯りを映写していた。だからそこ戦えたのだが今は煩わしさしかない。
だけど瞼の裏に焼き付いたあの人の顔を掻き消すには丁度良いわけで。煩わしいと思って申し訳ない。ありがとうございます。甘んじて視線を戻した。
こうなれば理が非でも寝てやる。帰還予定日だが帰る事は諦めて。一時の休息とは言わず朝日が昇るまで、おおよそ10時間くらいは。農夫さんに起こしてもらって、それで。
この寒さでは一生起きられなくなるかもしれないが次第に襲ってくる眠気に抗えるわけもなく目を閉じた。意識が遠のいていく感覚に浸りながら努力の甲斐あってか焼き付いた筈のそこに、あの人の顔は無く。
「真っ暗、だ」
まるでいつも見る夢のような、黒。深い虚空の奥底に落ちてゆく感覚。呑まれ足掻いても抜け出す事を許さない慟哭の嵐のような闇に沈み。
なんともお似合いじゃないか。人の死も意に介していなかったばかりか、手を染め守りたい人も守れぬクソみたいな私にはこの上なく。だからこそ、身を委ね――
――だがそんな私を呼び起こしたのは、雨音に混じり聞こえてくる規則正しい蹄音。同時に車輪の音もすると言う事は馬車か。そうか。誰だ乗ってんのは。羨ましいなちくしょう。
少し離れた農道から聞こえたそれはどうやら街からやって来た様で私の背後を過ぎ去っていく。こんな道を外れた暗がりに蹲る人間に気付くわけもなく。いや、気づかれては困るのだからそれで良いじゃないか。
いやいや、そうじゃない。そうじゃないんだよ私。まったく寝れると思ったのに起こしやがってからに許すまじ。寝付くまでにどれほどの労力が必要だと思っているのか。そうだ、それが言いたかったのだ。
しかし無情にも馬車は進行するその足を止めた。見つかってしまったのだろうか。それなら恥ずかしすぎる。こんな泥まみれで蹲り寝ようとしている所を見られるなんて。最終的に朝になれば農夫さんに見つかってしまうのだけれども。
次いで足音がする。泥水が跳ねる事を気にする様子もないそれは着実に私との距離を詰めてきた。もしかして再びこのケースを狙われるのだろうか。
2度に渡り死守してきたというのに何たる厄日か。勘弁してください、これ切実。
「…………」
歩みは止まらない。これはもう応戦する以外に道はなく、なれば先手必勝である。短期決戦に打って出なければ体が持たないばかりか、当然ながら単発式のこの銃に装填されている弾数は1発だ。ゆえに外してしまえば再装填する猶予なぞあるわけがない。
一瞬でケリをつけなければ勝てる見込みは皆無。神経を研ぎ澄ますも目は霞み動悸も激しく耳鳴りがする。もはや培われた勘だけが頼りだった。
勝てるかは分からない。もしかしたらそのまま奪われ挙句の果てに殺されるかもしれない。――それでも私は、足掻くのだ。例え影の中でしか歩けなくても、光を拒もうとも。
何が何でも生き続ける為に。任務を託してくださったエルヴィン団長の期待に応えるべく。信頼を寄せてくれる彼らの為に。守りきれなくとも戦う為に。そして再びあの人と聖域のベッドで眠る為に。これが身勝手にも卑怯な私の、悪足掻き。
刻一刻と近づいてくるその瞬間に備え、密かに懐の銃に手を伸ばしグリップの感触を確かめた。悴む指では痛みを感じるも馴染んだそれは確かな手応えと共に手のひらに収まる。
えぇいままよ。少しだけでいい、たった一瞬だけでいいから力を振り絞れ。このなけなしの体力と精神を今ここに。
私は静かに息を吐き目を閉じる。ホルスターの留め具を外し音を立てず引き抜きながら背後に来たる気配を捉えた瞬間、振向きざまに構えた。
――刹那の攻防。腕は照準を合わす間もなく掴まれ、反射的に蹴りを繰り出すもそれさえ軽くいなされ――終わった。万事休す。これ即ちお手上げというもので。だがしかし。
「馬鹿が」
嫌というほど知る声が、耳に届いた。
「な、ぜに――」
――ここに居るのか。呆気にとられた私は最後まで言えず脳内で問うことしかできなんだ。
「帰り道で泥遊びとは……寄り道するガキかお前は」
「……そん、なわけ」
「あぁ、んなわけねぇだろうな。ガキの遊びに付き合ってやっただけか」
「…………」
「物騒な叱り方だが悪ガキにはあのくらいが丁度いい。二度と悪さしねぇだろうな……良くやった」
「――っ」
「帰るぞ。その汚ぇ泥をさっさと洗い流して寝るに限る」
どうしてこの人は、これでもかと言うほど信頼という名の甘さを私に与えてくれるのだろうか。それは効果が抜群な極上の誘惑。焼かれる苦痛に苛まれると分かっていても、瞳に映さずにはいられなくなる中毒性を持つ甘美なまでのそれ。
手を伸ばしたくなる。この人が身に纏う光に。希望と期待を一身に背負うその体に。
――今こうして抱き上げられる事を拒みながら甘んじる私は矛盾に懇願する。またこの腕に縋ることを許して欲しいと。卑怯なこの私もろとも、馬鹿で愚にもつかないこの弱さを。少しの間だけで良いから、と。
「兵長!? その人?は……一体……」
「その小ささはもしかして、分隊長……ですか?」
「灯りを消せ。こいつはただの馬鹿だ、気にするな」
「オルオ! 小さくて可愛いだなんて失礼よ!」
「可愛いまで言ってねぇぞ!? そう思ってんのはお前だけなんだが!? だけなんだが!?」
「……タオルを持ってきてくれると助かる」
あぁ、彼らも任務帰りか何かか。そうか。何やら聞き捨てならない単語が聞こえた気がするも聞こえなかったことにしようそうしよう。座席に寝かされ少し硬めの枕の感触を確かめながら私は目を瞑る。
この時ばかりは座席にすっぽりと収まる自分の小柄さを褒める他ない。別に足元に置かれても文句はないのだけど、この優しい人たちはそれを許さないのだろう。
もし私が彼らよりも大きかったのなら向かい側に3人身を縮こまらせて座るに違いない。甚だ人の良い性格をお持ちで。
それゆえに、こんな醜態を晒す自分が情けなかった。例え灯りを消してもらえた事で隠れたとしても。その配慮は有り難くもあるが居心地の悪さは消せそうにない。これ即ち恥ずかしいって事で。
「分隊長は何故こんな……泥だらけなのでしょうか」
ペトラの心配そうな声音。泥だらけってバレバレじゃないですか。もしかして私の目が見えていないだけで灯りは点いたままなのだろうか。恐ろしくて目を開けることは出来なかった。
「……こいつは、運搬の任を命じられている。こん中は立体機動装置が入っているがそれだけじゃねぇ。これは他言無用だが機密書類を手に入れる事も含めての任務だ。その過程で阻む敵が現れようが、殺されそうになろうが死守しなきゃならん」
問いかけにリヴァイは足元に積んだケースを蹴りながら答える。やめてあげてください、その子も瀕死なんです。不憫な子なんです。
「そんな……夜遅くにひとり、命懸けで……」
「徒歩だったのは恐らく駄賃が――いや、何でもない。……まぁ、なんだ。壁外だろうが壁内だろうが死線を潜ってやがるって事だ。この馬鹿はな」
「ではこの泥も戦闘が行われたということですか?」
「だろうな。好きで地面に転がるほど馬鹿ではあるまい。恐らく怪我もしているだろう」
「なら手当しなくては!」
「問題はない。大怪我してんなら申告すんだろ。なぁ、よ?」
話しかけないでください。私は今気絶しているんです。これ以上恥の上乗せは勘弁してください。まさか話を振られるとは思っていなかったが為に反応してしまったこの指が忌々しい。ちなみにちょっとした打撲しかありません。
「起きておられるのです、か?」
「あぁ。後輩の前でこんな無様な醜態を晒してんだ、内心羞恥に塗れてるだろうよ。情けねぇだなんだと狸寝入り決め込んでやがる」
「そ、そんなまさか……」
いやだからやめてくださいお願いします。体が動けば土下座でもなんでもするのに。いやいや、それでは同じ恥を掻くだけだ。この人絶対分かってて言ってるんだろうね。そうに違いない。
さっきからこの有様をフォローするような言葉といい、一体全体何がしたいというの。いくら私のことを理解してくれるだいすきな仲良しだとしてもやって良い事と悪いことがあると思う。
こんな惨めさに磨きを掛けるようなマネ。銃を向けた仕返しとでもいうのか。それなら本気で謝罪するので帰ってからにしてください。それこそ土下座でも下僕でもなんでもしますから。
こうなればこの逞しい太ももを抓ってやろうか。ちくしょう。なんてこっそりと指を忍ばせ実行しようと動かすも、次いで紡がれた言葉に私の手は静止する事となる。
「これ以上掻く恥もあるまい。意地張ってねぇでもう休め、馬鹿が」
はたと瞠目する。泣きたくなる、とはこの事だろうか。無意識にも今まで考えてきた事全てを一蹴するその気遣いに、なりふり構わず縋りつくように服を掴んだ。
何度も疑問に思ってきた。どうして、と。どうしてこの人はいつもいつも私に手を伸ばさせるのかと。まるで手のひらの上で転がすように的確に対処してくるのだろうか、と。
私に信頼を置き、信頼させるこの人はどうしようもなくサディストだ。甘い言葉で釣って私の瞳を容赦なく焼いては今一度と縋る体を中毒にして、何度も焼き甘やかす。私の弱さを知った上で嘲笑うように。
憎いぜこんちくしょう。この男前が。マッチョが。剰え私にこんな貴方の所為にするという逃げ道を与えてくれるなんて優しいにも程がある。そしてそれに対して悔いる私を見て楽しんでいるに違いない。きっとそうだ。
――そうではくては今この瞬間に心の底から安堵を感じる事なんて出来ないではないか。
なけなしの握力を駆使して掴む指に力を込めれば、応えるようにリヴァイは私の頭に手を置くのだ。優しく、労わるように。とことん甘えさせてくれるその手に甘んじては目を閉じた。
雨具越しに感じる手のひらの温もり。撫ぜられた拍子にフードからポタリと水滴が落ち、頬を伝った。
END.
ATOGAKI
故意的に公に顔を晒していない設定は『重なり合う偶然』に出てきたアレです。実家では素顔ですが兵士と知られていないので大丈夫なはず。今後この設定が結構出てくるのでおさらいも兼ねて。無論私自身への。
特に意味の無いエルヴィンとの過去チラ見せでした。手を汚していた事はその過去で明らかにするつもりだったのですが気が変わってしまった。どうしてこうなった。犠牲とはまた違う意味合いで語られる筈。今後主人公の心境は暫く触れられない筈。
おそらくきっとたぶん。