She never looks back







※期待に背くというか逆に期待に沿えたのではというか予想通りというか(遠い目)
アンケート結果報告&コメント返信
↑元ネタ的な前振り的な事の発端







 ―甘さが足りない:アンケート御礼―







「突発的ではあるけど先日兵団内でアンケートをとってみたんだ」
「はぁ……」


作戦室に呼ばれたかと思えば本当に突発的な事を宣うハンジに、はイマイチ飲み込めぬまま相槌を打った。 階段状になった机の配列の下から2段目に導かれ腰を下ろすを確認しハンジは口を開く。


「今日はそれの結果報告をするよ。テーマは幹部について。それ以外の団員全員に匿名で各幹事ひとつずつ回答してもらったんだ」


黒板に張り出された紙。一番上に幹部の名前が書いてありその下に各自の項目が回答数の多い順に記されている。ところどころ別紙で隠されているようだ。 自由回答らしいが類似する意見は総合的な単語でまとめられているのだろう。優に3桁は行く団員数なのだが集計するのはさぞかし大変だったと予想する。 一体どのような目的で行ったのか甚だ疑問ではあるがご苦労な事だ。そう思いつつは端から眺め己の項目に目を通していたその時、目敏いどっかの誰かさんが痛いところを突いてくるのである。


「……ひとりだけ回答数がヤケに少ねぇが」
「リヴァイ、そういう事は思っても口に出すものではないよ。の事はお察しだろう」
「ちなみに無回答者は居ないよ。のはみんなありきたり過ぎて省かせてもらった」
「スン……半数以上が『怖い』など(悪口的なもの)とは想像に難くないな」

「みなさん私の傷口に塩を塗っているという自覚はあります?」


一同、沈黙。大変失礼である。一番下の段に座る幹部たちを見下ろしながらは突っ込みを入れるも尽くスルーされたというわけだ。ちくしょう。 そして何事も無かったかのようにハンジは話を進めるのである。


「エルヴィンはまぁ概ね予想通りだったね。『聡明』『尊敬』云々。少数票には『眉毛』やら『育毛剤を』なんてのもある」
「リヴァイ、奇行種……後で私の部屋に来なさい」
「リヴァイもそんな感じだね。『頑張れ!』『カッコイイ』『抱いて』『一生ついていきます』性別関係なくモテモテだ。少数票には『進展はまだか』『目指せ高身長』などなど」
「眉毛、奇行種……お望み通り後で削いでやる」


どうやらふたりは少数票の犯人をご存知の様子。まぁ、考えなくとも分かり易いと言えばそうなのだが。


「私のは『変人』『巨人大好き』『研究の虫』とかだね。褒め言葉として受け取っておくよ。少数票は……育毛剤、目指せ高身長、ふたりは後で被検体になって貰おうかな」


いや待てよ、と。何故この3人は投票しているのだろうか。は記憶をいくら探ってもアンケートなぞと回答した覚えもなければ行われていた事さえ知らなかったのだ。 どこをどう見てもふざけた回答はコントか何かか。どうせならノリたかった、なぞと本音はひた隠す。


「なんだかよくわかりませんが何故に幹部のみなさんも投票しているのです?私はアンケート取っていた事さえ存じませんでしたが」
「それは違うよ。私とエルヴィンやリヴァイが主催者なだけでこの3人の回答はただのお遊び回答なんだ」
「(この人たちは暇人なのだろうか)」


数百人の回答を集計する手間もこうして集い報告する時間も『物好き』と一括りにするには些か無理がある気がするのだが。 何はともあれ巻き込まれる此方の身にもなって欲しいものである。もう消灯時間も過ぎた深夜帯であるからして非常に眠い。決して仲間はずれにされた事に対して拗ねているわけではない、断じて。

目を瞬かせるを余所に報告は続きトントン、と軽快な音を立て指示棒が遂に最後の名前を叩いた。言わずもがなという字を指している。 1位だけ別紙で隠されており気にならないと言えば嘘であるからしては大人しく耳を傾けた。


のは『そのノリ……嫌いじゃないぜ』『守りたい……この無表情』『このままでいい好きにしろ』良い意見だね(悪評は省いたから当然だけど)」
「(先輩らだろうな)」
「(隠れファンも居るようだ)」


他にも『早く恋愛しろ』だの『まだ恋人にならないの?(略)』だとか良く分からない項目もあるようだが、鈍感ゆえかは流し見るだけに留める。 『……悪くない』だなんてリヴァイが5票も入れたという事なのか。はたまた。 疑問符を浮かべる海見を余所にハンジはニヤリと気色の悪い笑みを浮かべるとジャッジャーンだかなんだか効果音付きで紙を捲るのだ。


「そして栄えある第1位はズバリ、『甘さが足りない』だ!」
「ほぅ……」
「ははは」

「『甘さが足りない』……?」


一体全体何のことやら。こうして夜は更けていく。





 ♂♀





何だかんだ言いつつもやはり気になるものは気になってしまうもので。早朝、珍しく任務が入ってないにも関わらず就業開始時刻より些か早い時間に執務椅子に座るは、指組みの上に額を乗せ考え込んでいた。


「一体全体何だと言うの……」


どうやら昨夜の結果報告会から延々と寝ずに思考を巡らせていたらしい。俯く顔は真剣そのものである。睡眠に貪欲の筈なのだが徹夜してまで悶々としている姿はどこか執念にも似た鬼気迫るものであった。 恐らくいくら考えても答えが出ない曖昧な状況を良しとしないきらいがあるというより、意外にも周りの評価を気にしてしまう人間なのかもしれない。今回は悪評ではなく『ご厚意からくる評価』ゆえに。


「『甘さが足りない』とはどう言う事だろうか……」


甘さ。甘さとは。仕事の件ならばサボ……息抜きをしたり己に甘いと思う。他にはお菓子作りは申し訳ないが出来ないのでそれの事なのか。それとも甘さ控えめに作ったホットチョコレートがいけなかったのか。 いや、あれを飲んだのはごく少数であるからして全58票、内11票という人数はあの時より多い。ならば『甘さが足りない』という項目は人それぞれ意味合いが違うのでは。 しかし嬉しくも素敵なコメントは2件頂いたワケだがそれは違う項目についてのものだった。絶対的な情報不足である。困ったものです。


「何やら困ってるようだな、よ」
「どちらかというとハッキリしなくてむず痒いと言うか名状し難いと言うか……」
「たかがアンケートにそう思い悩む事もあるまい」
「そんなつれない事を仰っしゃる兵士長様、回答してくださった方にひと言どうぞ」


「お前たちが協力してくれたお陰で俺たちの主催した企画が成功した。ありがとう」

「中には握手したい方もいらっしゃいましたし他にも身に余る光栄よろしくな項目に投票していただき本当に感謝です」

「これからも」

「よろしくお願いします」


「……これで良いか」
「バッチリだね」


もうワケが分からない。は椅子に身を沈めると両手を投げ出し、不躾にも執務机に腰掛けるリヴァイを一瞥しては天を仰いだ。


「まぁ、なんだ……お前は戦闘や任務においてもクソ真面目であり時には冷酷非道、慈悲はない。そう言う事なんじゃねぇのか」
「はぁ……それもそれで無理のある解釈だと思うけれど。と言うかそこに『甘さ』を加えてしまったら命取りになるわけで」
「…………」


――リヴァイは知っている。『甘さが足りない』と言う意見の本質を。だけに向けられた言葉ではないという事も余すことなく、それはもう身に覚えがありすぎる事であり己自信も何とかしたいと思ってはいるものだと。 しかしこの鈍感なに言ったところでたかが知れている。残念ながら。すまない。力及ばぬばかりに。それでも諦めきれずリヴァイは確認よろしく疑問を投げかけた。


「なぁ、よ」
「……なに」
「お前は恋愛事に頓着はあるのか?」
「相談とかは専門外だけれどそれ相応の感慨は持ってるつもりだよ」
「ならお前自身についてはどうなんだ」
「私が恋愛するかどうかという事なの。この干物女代表にそれは……皆まで言うな、とだけ」


先入観からなのか、そう生きてきた所為なのか。それとも別の理由が存在するのかは知る由もない為、リヴァイはお手上げだと言わんばかりに肩をすくめた。返り討ちにあった気分である。まぁ想定の範囲内と言えばそうなのだが。


「……難儀な奴だ」


しかし僅かながら希望は存在する。以前、食堂で交わしたハンジとの会話だ。の砦の中に隠された真理。それと関係しているのだろうかなぞと、自惚れだろうか。


『君にしか攻略できないって言ってるのさ』


たかがハンジ、とは一概には言えまい。ハンジも理解者のひとりなのだ、真面目な場面での言葉は信頼に足る。ことに関してはエルヴィン同様冗談が通じない一面も持ち合わせており、『からかい』の使いどころは心得ている筈だ。 従ってこの言葉を聞いて自惚れるなという方が無理な話しであるからして。そのお陰で今現在リヴァイ自身は苦悩せざるを得ない状況に陥っているのだがいやはや。

ともあれ少しくらいはハッパをかけても許されるだろうか。むしろ本人が言い出したことだ、構うまい。ちょっとした悪戯心ありきの建前と本音を隠し混ぜてリヴァイは机を降りると天井を仰ぎ見たまま目を瞑るの傍へ歩み寄る。


「なんと言うか……心臓を捧げた身である兵士が恋愛するな、とは言わないよ。だけど――」


音もなくやって来たリヴァイに気づきは思わず言葉を詰まらせた。どうしたの、いきなり。言外に訴える瞳が揺らぐことはない。





不思議そうに瞬くそれを捉えたままリヴァイは背もたれに手を置きまるで試すように、いつぞやの遠まわしな問いかけとは違うどこか核心に迫る言葉を紡いだ。


「ちったぁ難易度を下げたらどうだ。攻略するこっちの気も知らねぇで……」


――リヴァイは思う。何を宣おうが今はその時ではないのだと。真理を守り続ける頑なな姿勢、砦を築く姿に隙なぞ存在しない事が何よりの答えなのだと。 それでも挑発せずにはいられなかった。ほんの少しでもいい、が考え及ばぬ『甘さ』とやらを己自信待ち望んでいる自覚はあるからして意識して貰わずにはいられまいと言わんばかりに。


「……何だか理不尽な怒りを向けられている気がする。どうしたというの」
「自分の胸に聞いてみろ……無駄に着痩せするその胸にな」
「セクハラは勘弁」
「なんだ、俺に直接聞いて欲しいのか」
「お願いだから私の話を聞いて」


近づく距離。鼻先が触れるその距離感にたじろぐほど伊達に添い寝をしてきたワケではない。いつもの事だ。そう、思うのだが。 やめておけと歯止めをかける理性とやっちまえと背を押す本能が交戦する脳内に見て見ぬふりをしてリヴァイは空いていた手をの肩に添え。

肌を擽る前髪、間近で交わる視線。触れそうで、触れない唇。あと少し。あと1センチ。目を閉じるのは――自然の流れだった。


「…………スヤァ」

「オイ、寝るな」


敗因はが寝不足という事実他ならない。






 ―本題―






昼間近な時間帯。昨日は徹夜ともあり未だに起きない睡眠に貪欲なを横目に読書、もとい手記の解読に勤しんでいる時だった。 非番なので起こすのも気が引け放っておいたのだが、短くも悩ましい呻き声を上げたかと思えば勢いよく布団をはぐり突拍子もない単語を口にする


「……キス?」


一体全体どのような夢を見ていたのか気にならないと言えば嘘になる。が、俺は「勝手に見るな」とまたお咎めを受けることの無いよう手記を枕の下に隠してから注意を逸らすよろしく口を開いた。


「口付け」
「ちゅー」
「接吻」


くだらなくも類語選手権をおっぱじめては寝起きに関わらずノリの良いに呆れる他ない。こいつは乗らずにはいられないタチなのか、それとも照れ隠しなのかどちらにしろそれに付き合う俺も大概だ。 というよりも先にけし掛けた自分を棚に上げ気の済むまでやらせておこう、そう思っていたのだが。


「『ん』だから負けだね、リヴァイ」


まさかの展開にため息は深呼吸と言っても過言ではない程に深くなった。それでもノってしまう俺はただ暇を持て余していたのだ、と心の中で言い訳をする。


「……いつからしりとりしてたんだ俺たちは」
「はて、いつからだったかな」
「ナメてんのかてめぇ……」
「え、そんな事ないよ。貴方をナメたらたんこぶ出来るじゃん」
「『ん』だからお前の負けだな」
「なんと……やっちまったぜ」
「是が非でもやらねぇとな、罰ゲームを……お望み通り『キス』で許してやらんでもない」
「嫌です、やめてください」
「いい度胸じゃねぇか。拒否1回につき5秒延長だ」
「だ?だ……第一、最初に負けたのはそっち。罰ゲームを受けるのは私じゃない」
「……いいだろう、さっさと決めろ。俺の気が変わらん内にな」
「何故にそんなノリノリなの……」


お前にだけは言われたくねぇ。いつの間にか会話自体がしりとりになっている現状に満更でもない俺はの頭にそそり立つ寝癖を摘んでは弄んだ。 キスだなんだとまるで昨日のやり取りを彷彿とさせる夢を見ていたなんざ、現実から影響されすぎではなかろうかと言外に茶化すように。まぁ、昨日は未遂だったわけだが。 いつぞやかはパンツを脱ぐだの追っかけられるだの……こいつの魘される原因は俺か。そうなのか。いや、そんなはずはない。恐らく。


「うーん……特にして欲しいことは無いけれど」
「なら『キス』でいいじゃねぇか」
「それは私への罰ゲームでは……まったく、何故そんなにキスに拘るのか15文字で」
「『キスぐらい減るもんじゃねぇから』」
「これが百戦錬磨の座右の銘か」
「『先っちょだけでいいから頼む』」
「それたぶん部位が違うよ」
「『俺のキスは引き出しが多いぞ』」
「どこから覚えたのそんな台詞」
「『最近欲求不満である』」
「……こんな30代にはなりたくないね」
「全て冗談だ」
「じゃなきゃ困るよ色々と」


意外に15文字はイケるな。どこで役立つかも分からないというより使いどころを間違えている知能をお互いに披露しながらボケとツッコミの奥深かさを学ぶなぞと嘯く。そんなひと時。 一体全体俺たちは何について話をしていたのか。それさえも分からなくなってしまったのは皆まで言わず。

枕の上で頬杖を突き据わる目で見上げられるも俺の視線は自然と唇に行ってしまう後ろめたさ、なんてものは無く心行くまで堪能してふと気付くのだ。


「結局キスはするのかしねぇのかハッキリしやがれ」
「まだ続くのその話。しないから忘れて」


どうやら計10秒という短いとも長いとも取れる時間をご所望らしい。まったく素直ではない女だ。


「これが変態を極めた人間の末路か……どこをどう受け取れば素直じゃないと言えるの。完全に拒否られていることに気づいて」
「バカ言え、俺の本気はこんなもんじゃねぇ。変態プレイの引き出しは多いぞ」
「混ぜるな危険。貴方は自分自身の評価を貶めているという自覚をするべき」
「ハンジよりはマシだろ」
「それもそうだね」


伝家の宝刀を持ち出した事で綺麗さっぱり場が収まるとは。流石ハンジと言わざるを得ない。 それはさて置き何をするでもなく時間を浪費しながら俺たちは起き上がるのも億劫だと言わんばかりに未だ寝転がっているわけだが。

今まで想像する事さえしてこなかった怠惰な休日。こんな天気のいい日にやるべき事を全て放棄しただ徒にゴロゴロとベッドで過ごす。そうか、こうして干物女の経験値は積まれていくのか。勉強になった。 ただのダメ人間じゃねぇか、というツッコミは本来俺がするべきなのだろうが如何せん人の事を言えた義理ではない現状。うつらうつらと瞼を瞬かせはじめるに呆れながらも釣られて睡魔が襲ってくる気配を振り払うように頭を振る。


「キスしたら孕む」
「……あ?」


今一度頭を振る。何言ってんだこいつは。


「私はそう教わった。だからキスはしない」
「お前……本当にそんな子供騙し信じているのか……?」
「冗談だよ」
「じゃなきゃ困る色々とな」


良かった。俺の前途多難さはそこまで酷いわけではないらしい。いきなり何を言い出すかと思えば……びっくりしたじゃねぇか。 振りすぎた頭に手を当て嘆息。はたまにとんでもないボケをかましてきやがる。その都度無駄に頭を働かせ脳内でそれを処理する俺の身にもなって貰いたいものだ。なんてな。

まぁいい、それはともかくはどちらかというと騒動に巻き込まれる側だと思う。自発的に起こすのは俺との悪ノリぐらいか、そう記憶している。冗談を言うのは相も変わらず、好奇心も旺盛のようだが。 それが願わくば他の人間の前では見せない姿であって欲しい、と独りよがりの願望を抱いては忸怩たる思いに脳内で掻き消した。だいすきな仲良しというだけでこの独占欲だ、愚にも付かない考えは隠し通すに限る。

何故ならば。


「私はね、リヴァイ」
「なんだ」
「2日分の睡眠は十二分にとれたと思う」
「そうだな」
「そんな私だけれどたまには外を散策したい気分になる時もある」
「干物女のお前が街に繰り出したいとはどういう心境の変化だ」
「……この世の不条理に絶望したのだよ」
「巨人相手にしてりゃ誰でもそうなる。一部を除いてな」
「違う。私の考えている事を分かってくれていると思っていた相手が全く分かっていなかった事に絶望したと言う意味」
「論理が飛躍してねぇか。今までの会話の流れから何を察せと?」
「これでもなけなしの理性で抑えているのだけれど」
「……せめて時間帯をずらせ。それなら考えてやらんでもない」
「わーいパトロン兵士長様の奢りだー」
「オイクソ野郎、何やら聞き捨てならねぇ単語が聞こえたが」
「いやーさすがだいすきな仲良しだねー分かってらっしゃるー」


――曰く、このだいすきな仲良しは現状維持をご所望のようだからな。


「……俺も大概、か」
「なに、リヴァイもお腹が空いていたならそう言えばいい」
「はっ……違ぇよ。飯をたかってきやがるお前に対してつくづく『甘い』なと自己嫌悪に陥ってただけだ」
「『甘い』……?」


はたと瞠目するの様子によくわからんが「やっちまった」とだけは理解できた。 もしかしなくとも琴線に触れたのだろう、勢いよく上体を起こすの突発的な行動に再びびっくりした俺は思わず慄いてしまい寝巻きが捲れて下着が丸見えだと指摘することさえできなんだ。


「やっと分かった。『甘さ』の意味が」


そして居住まいを正しあまりにも真摯な瞳を向けてくる態度に開いた口が塞がらず呆然と見返していたのだが、我に返り。


「……そうか。ならばその答えとやらを聞こうじゃねぇか」


いやはやこのパターンは想像に難くないと口元をヒクつかせるのだ。漸く『甘さが足りない』という言葉の本質が理解できたのか、と期待なんぞ誰がするかチクショー。


「ふふふ……私は自分自身に対しては『それ』を持っていた」
「……いや、持ってなさすぎだと思うが」
「だがしかし、人に対して『それ』は足りないと言われるほど持っていなかったと反省するべきなのかもしれない」
「それ即ち……?」

「これから私はみんなを――『甘やかそう』と思う!!」


これはツッコミ待ちなのか。それとも本気で言っているのか。言わずもがな後者だろうな。そうに違いない。なんせこの馬鹿はガッツポーズよろしく拳を高々に掲げ輝かす瞳に決意の炎を灯しては今まさに実行しようとしているからである。


「さぁリヴァイ、私の膝に頭を乗せるといい」
「……甘やかすイコール膝枕というのは如何なるものか」
「まぁまぁ、罰ゲームだと思って遠慮する事はない」
「バカ言え、ご褒美の間違いだろ」


まぁ、こいつなりの『甘さ』とやらに文字通り甘んじて頭を移動させる俺が嬉々として堪能するのも言わずもがな。 そして際どくも寝巻きと太腿の境目に顔を密着させては、うるさい腹の虫に有り難みを根こそぎ掻っ攫わられていくのも以下同文。


「……ご飯、食べに行こうか」
「……そうだな」


ともあれ甚だ見当違いな解釈をするに『反省するまでもなく十分他人を甘やかしている(主にハンジやエルヴィンに対して)』と指摘するのも億劫になった俺はほとほと肩を落としながらも久しぶりの外食で気分を紛らわすのだ。 何やらご満悦な無表情を視界に入れては嘆息。だがそんなも悪くないと満更でもない俺もやはり大概である。意気地無いとは言ってくれるな、何より俺が一番実感しているところであるからして駄目押しを今ここに。


「やたら無闇に他の奴を甘やかすのはやめておけ」
「何故に」
「……冷酷人間だろ、お前は」
「――!!そ、そうだった……意味が分かった嬉しさで見落としていた……どうすればいいの」
「そうだな、仮面を被る必要の無いだいすきな仲良しである俺だけを存分に甘やかしておけば――」
「贔屓は良くない。アンケートに答えて下さった方に対する事をしなきゃ駄目だと思う」
「(分かってくれ、その贔屓とやらが望まれているのだという事を)」


どうやら当分のあいだ皆が望む『甘さ』は期待できそうにないらしい。すまない。力及ばぬばかりに。だがアンケートに協力してくれた労力に見合う報酬はいづれ払うと約束しよう。おそらくきっとたぶん。 そんなこんなでいつもと変わらない日々は過ぎていくのであった。


「何か忘れてるような気が……まぁいい忘れちまうぐらいだ、大した事じゃねぇだろ」
「(キスネタ回避に成功した模様。さすが私、完璧である)」


――自ら『甘さ』を遠ざけるという盛大なボケをかましたとは今の俺が知る由もない。






END.















ATOGAKI

2月26日-3月7日実施『突発的振り返らないシリーズアンケート』御礼短編。

遅ればせながら。ご協力ありがとうございました!ビックリするほどのコレジャナイ感と共に。言葉通り『甘さが足りない』話でした。 恐らく私は土下座をしなくてはならない気がしますがいつも通りと言う事で何卒。平常運行です(良い笑顔)。

謝辞は結果報告で散々言ってくどいと思いますので割愛。こんな感じのサイトですが曲がりなりにも夢小説と銘打つサイトですのでそれ相応の物を書いていけたらと。 拙い物ではありますがこれからもこのlunguidと共に振り返らないシリーズをよろしくお願いします。


2015.3.15 lunguid:管理人